2013 Fiscal Year Annual Research Report
反応動力学における原子核運動の超多体量子化の理論と化学反応論の深化
Project/Area Number |
23245002
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高塚 和夫 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (70154797)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 理論化学 / 反応動力学 / 分子分光 / 電子状態 / 分子動力学 |
Research Abstract |
筆者は,非常に多くの原子(1000原子を当面の目標とする)を含む分子系中の原子核の運動を量子論で扱うための「超多体量子動力学理論」を築き,多体化学反応動力学を飛躍的に発展・深化させることを目的してきた.幸い,長い時間をかけて取り組んできた「超多体量子動力学理論」が完成し,論文として出版した.これにより本研究の最大の課題を克服した.本理論では,動力学を表現する位相流をラグランジュ描像で表現し,量子位相を含めた波動関数の値に関する「保存則」を導いた後,さらに量子拡散項による特異点の解消という手続きで,波動関数の時間発展が記述される.特に,量子振幅項から現れる新たな位相項が明示的な形で得られ,それに付随する様々な量子効果を明らかにすることができた.ここでは,古典力学と量子力学の類似関係と相違性が階層的に明示されているだけでなく,今まで不可能であった多次元計算が実際にできるようになった.低次元系における純量子論との比較計算によって,この近似理論が極めて高精度であることも確かめられた.今後,この理論をさらに拡張し,より応用しやすいアルゴリズムの作成に進んだ後,タンパクなどへの応用を行う計画である. また,筆者らが開発してきた超ボルン・オッペンハイマー理論(非断熱電子動力学の理論)は,電子と原子核の同時量子動力学のための理論であるが,従来,化学理論の土台の役割りを果たしてきたポテンシャルエネルギー曲面の概念が意味をなさないほどの縮重系についての化学理論を発展させた.また,励起状態における電子・プロトン同時移行反応の同定を基に,電荷分離の新しい機構を解明した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
長い時間をかけて取り組んできた「超多体量子動力学理論」が,ようやく完成した.これは真に画期的な理論であり,今後化学反応動力学の分野を大きく書き変えていく可能性を持っている.課題研究開始2年目で,検証も含めて,これが完成したのは,当初計画より早いと考えている. 一方,応用研究は,対象の難しさも有り,更なる注力をおこなっているところである.
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Strategy for Future Research Activity |
「超多体量子動力学理論」のさらなる検証と,量子論への独自の解釈を試みつつ,一方で応用研究を進める.具体的には,(1)Gutzwillerらの半古典エネルギー量子化では,プランク定数が大きくなると真の値からずれることが分かっている.一方,本理論により,波動関数の振幅項から新たなプランク定数依存性が明示的に得られたので,これをもとに振動エネルギー量子化などの機構の再検討をおこなう.特に,少数次元ではあるがカオス動力学のような難しい系を使って,理論を数値的に検証する.(2) タンパクレベルの量子動力学や原子クラスターの構造転移における量子効果の検証の研究を進める.(3)超ボルン・オッペンハイマー理論で得られる, non-Born-Oppenheimer軌道(非古典力学的な運動)の量子化を「超多体量子動力学理論」を使って行う.(4)統計動力学の立場から,溶液中の化学反応の動力学理論を展開する.
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