2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23245012
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
北川 宏 京都大学, 理学研究科, 教授 (90234244)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前里 光彦 京都大学, 理学研究科, 助教 (60324604)
山田 鉄兵 京都大学, 理学研究科, 助教 (10404071)
魚谷 信夫 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 特任教授 (90602417)
|
Keywords | プロトニクス / プロトン伝導 / 混合伝導体 |
Research Abstract |
層状構造を持つ蜂の巣状の骨格[M2(ox)3]n-∞を用いて、細孔内に水分子とともに酸性分子としてアジピン酸(adp)を導入したシュウ酸架橋配位高分子(NH4)2(adp)[Zn2(ox)3]・3H2O(ZnADP)を新規に設計し、合成した。この配位高分子は層間部分にadp、アンモニウムイオン、および水分子からなる水素結合ネットワーク構造を持ち、常温において0.8×10-2Scm-1の非常に高いプロトン伝導度を示すことがわかっている。しかし、これらの水素結合ネットワーク中に存在するプロトンの運動に関する知見はこれまで得られていなかった。我々は、ZnADPのプロトンダイナミクスについて明らかにするために、中性子準弾性散乱測定、熱容量測定および低温での単結晶X線構造解析を行った。国内のAGNES分光器(日本原子力研究機構、JRR-3研究炉)、および英国のIRIS分光器(Rutherford Appleton Laboratory、ISIS)を用いて中性子準弾性散乱スペクトルの測定を行った。10Kでは弾性散乱のみが観測されたのに対し、100K以上では、ブロードな準弾性散乱成分が観測された。ZnADP中には、アンモニウムイオン、水、adpにそれぞれプロトンが存在するため、これらの分子運動に由来する準弾性散乱であると考えられる。また、準弾性散乱の半値半幅が散乱ベクトル(q)に対してほぼ一定の値を示したことから、これらの運動は回転運動などの局所的な運動が主体であることが示された。このことから、ZnADPでは主に、結合交代と分子回転を介した伝導機構として知られているGrotthuss機構によってプロトンキャリアが伝播していることが示唆された。80K付近での相転移の存在を確かめるために熱容量測定を行った。86Kにおいて鋭いピークが観測され、相転移が存在することが明らかとなった。転移エントロピーΔSは5.18 J K-1 mol-1と算出された。これは、一通りから二通りの配向を持つようになるときの秩序-無秩序転移に見られるΔSの値Rln(2)=5.76に近いことから、アンモニウムイオンの分子配向の秩序-無秩序転移であることが示唆された。しかし、ZnADPには式量あたり2つのアンモニウムイオンが存在するため、これはその約半分の値ということになる。その原因として現在は、2つのアンモニウムイオンが水素結合ネットワークを介して協同的に回転運動しているためではないかと考察している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
数多くのプロトン伝導体を開発し、中性子散乱実験により、伝導機構の解明を行った。これらは、計画を前倒して行ったものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
計画が予想以上に進んでいるので、最終年度の実施項目も取り込んで取り組む予定である。
|