2012 Fiscal Year Annual Research Report
高分解光学観察による氷結晶表面での疑似液体層の動的挙動の解明
Project/Area Number |
23246001
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐崎 元 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (60261509)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古川 義純 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20113623)
長嶋 剣 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60436079)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 氷 / 表面融解 / 擬似液体層 / 単位ステップ / 高分解光学顕微法 / ラマン分光法 / 原子間力顕微鏡法 |
Research Abstract |
平成24年度は,麻川明俊博士を博士研究員として雇用し,研究分担者と協力して,下記の3点を押し進めた. 1)2種類の擬似液体層の熱力学的安定性に及ぼす過飽和度の役割:当初は,「共存する気体の影響」を明らかにする予定であった.しかし,結晶成長学の分野において世界最高の理論研究者であるアレキサンダー・チェルノフ教授(米国ローレンス・リバモア国立研究所)を,平成24年6月29日より1ケ月間招聘して(JSPS短気招聘)徹底的に議論したところ,平成23年度に行った「2種類の擬似液体層の熱力学的安定性」についてさらに「過飽和度の役割」を調べることが決定的に重要であるとの結論に至った.この指針に基づき研究を進めたところ,2種類の擬似液体層は氷結晶よりも不安定な「準安定相」であることを発見した.擬似液体層は「熱力学的安定相」であると永年信じられて来たため,本結果は,永年の常識を覆す大変重要な成果である.また,氷結晶中の格子欠陥に基づく歪みが,擬似液体層の生成を顕著に促進することも見出した. 2)顕微ラマン光学系の作製と立ち上げ:平成23年度に作製した顕微ラマン分光光学系と,現有のレーザー共焦点微分干渉顕微鏡を結合させ,光学観察と分光を同一視野で達成できる世界で唯一の装置を立ち上げることができた.両装置の円滑な結合に予定外の時間を要したため,分光実験は平成25年度に持ち越す. 3)氷結晶表面を原子間力顕微鏡観察するための観察チャンバーの作製:結晶表面を「真の原子・分子分解能」で直接観察できる,現在世界で最高の分解能を有する「周波数変調型原子間力顕微鏡」を立ち上げることができた.当初の計画では観察チャンバーを作製する予定であったが,観察の大本となる原子間力顕微鏡自体の著しい改造・改良が達成できたため,平成25年度には当初の予想を上回る成果が得られると期待している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
結晶成長学の分野において世界最高の理論研究者であるアレキサンダー・チェルノフ教授(米国ローレンス・リバモア国立研究所)との徹底した議論にもとづき,「2種類の擬似液体層の熱力学的安定性に及ぼす過飽和度の役割」について研究を進めたところ,2種類の擬似液体層は氷結晶よりも不安定な「準安定相」であることを発見した.本成果は,研究計画当初には全く想定していなかった,擬似液体層に対する永年の常識を覆す大変重要なものであり,擬似液体層の本質の理解が大きく進んだ. また,氷結晶中の格子欠陥に基づく「歪み」が擬似液体層の生成を促進させるという発見も,計画当初には全く想定していなかった成果である. 上記の様に,平成24年度には,当初の計画よりもはるかに重要かつ本質的な成果が得られたため,自信を持って「当初の計画以上に進展している」と断言できる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度も,麻川明俊博士を博士研究員として雇用し(平成24年度より継続雇用),研究分担者と協力し,下記の3点の研究に取り組む. 1)2種類の擬似液体層の熱力学的安定性の定量的計測:当初の計画では想定外であったが平成24年度には,2種類の擬似液体層が長らく考えられて来た「熱力学的安定相」ではなく,氷結晶よりも不安定な「準安定相」であることを定性的に見出した.平成25年度には,2種類の擬似液体層の「見かけの圧力-温度状態図」をさらに精密に計測することで,想定外に得られた大成果を定量的に明らかにする. 2)顕微ラマン分光による擬似液体層中の水の分子運動の計測:平成24年度にさらに高感度化のための改良が加えられた顕微ラマン光学系を用いて,擬似液体層中の水の分子運動を計測する.まずは,α-擬似液体層(バルク状液滴)をラマン分光計測し,結果をバルク液体の水と比較する.そして,α-擬似液体層がその形状から予測されるようにバルク水と同一であるかどうか調べる.その後,β-表面液体相(薄液状層)のラマン分光にも挑む. 3)氷結晶表面の原子間力顕微鏡によるその場観察:平成24年度には,真の原子・分子分解能を有する「周波数変調式原子間力顕微鏡」を立ち上げた.平成25年度には本装置を用いて,氷結晶表面上での直接観察に挑む.氷結晶表面の観察が困難な場合には,氷結晶のヘテロエピタキシャル基板として有名なAgI単結晶表面を様々な過飽和度の水蒸気中で観察し,氷結晶化の初期過程の解明に挑む. しかし,平成24年度の様に,研究の進展に従い「より本質的に重要である」と判断できる想定外の研究指針が得られた際には,柔軟に対処する.
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