2012 Fiscal Year Annual Research Report
その場観察・解析ナノメカニカルラボによるナノ薄膜の破壊機構と寸法効果の解明
Project/Area Number |
23246026
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
箕島 弘二 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50174107)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平方 寛之 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40362454)
|
Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | マイクロ材料力学 / 薄膜 / 破壊 / 疲労 / 強度 |
Research Abstract |
本研究では,厚さが10 nm~100 nmオーダーの金属薄膜(ナノ薄膜)を対象として,制御された力学的負荷条件下において,き裂先端などの応力集中場における変形・破壊のナノメートルオーダのその場観察と構造解析が可能となるその場観察・解析ナノメカニカルラボを開発し,これを基に実験・観察・解析による破壊機構の解明を通して,ナノ薄膜の強度の支配力学を明らかにすることを目的とする。ここでは,基本的な強度・破壊じん性のみならず,クリープ強度や疲労強度における寸法効果を,微視的な変形・破壊機構に着目して解明する。 本年度は,高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(FESEM)と微細結晶構造解析装置(EBSD装置)からなるその場観察装置内で稼働させる薄膜用力学試験装置を製作して,その場観察・解析ナノメカニカルラボを完成させた。さらに,厚さ100 nmと500 nmの自立銅薄膜試験片に対する疲労き裂進展試験を実施した。FESEMによる局所破壊過程観察とEBSDナノ結晶構造解析を併用することにより,ナノ薄膜では疲労き裂先端前方にバルクにおいて疲労き裂発生過程で生じる入込み・突出しが双晶境界に沿って形成され,それらが合体してき裂が進展することを明らかにし,バルク材とは異なる疲労き裂進展機構を呈することを示した。さらに,膜厚が薄くなると疲労き裂進展抵抗が低下する膜厚効果の存在を明らかにした。これらの成果に関する一連の講演発表は高い評価を受け,日本材料学会第61期学術講演会優秀講演発表賞,日本材料学会関西支部ポスター支部長賞,および日本材料学会第31回疲労シンポジウム優秀研究発表賞を受賞した。 さらに,塩化ナトリウム基板に対する高温EB蒸着と犠牲層エッチングを用いた手法により,銅および金の単結晶自立ナノ薄膜試験片を作製する技術を開発した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に計画した(1)その場観察・解析ナノメカニカルラボの開発,(2)自立ナノ薄膜の作製,および(3)ナノ薄膜の基本特性評価,について交付申請書の計画通り進めることができた。具体的な達成状況は以下の通りである。 (1)前年度に設計した薄膜用力学実験装置を実際に製作するとともに,基本的な動作を確認した。この結果,本研究の遂行に不可欠であるナノ薄膜試験片のチャッキング,mNオーダーの荷重の負荷,変形や破壊のその場観察,およびEBSDによるナノ構造解析が問題なく実施できることを確認した。 (2)これまでは樹脂層を犠牲層として金属薄膜を製膜後に犠牲層エッチングにより自立薄膜試験片を作製しており,金属ナノ薄膜に対して熱処理等を実施するには耐熱性に限界があったため,室温下で製膜したナノ薄膜を対象として実験を行っていた。本年度は,耐熱性の高い塩化ナトリウム基板を犠牲層として用いて自立ナノ薄膜試験片を作製する手法を確立した。この手法を用いることにより,超高真空ベース圧力下において基板温度500℃までの高温下で製膜が可能となり,例えばエピタキシャル成長による単結晶薄膜の作製や多結晶薄膜に対する焼鈍等の熱処理を行えるようになった。これにより,内部構造を制御した自立ナノ薄膜試験片を用いて,ナノ薄膜の強度発現機構や破壊の力学的支配因子をより詳細に解明できる技術基盤を確立した。 (3)銅ナノ薄膜の破壊じん性について,き裂進展の詳細な観察により,き裂進展機構とその膜厚依存を明らかにした。疲労き裂進展特性に関しては,下限界近傍特性,応力比効果,膜厚効果を明らかにした。なお,き裂閉口現象の有無をはじめとする破壊機構の詳細については未解明である。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度までに開発したFESEM,EBSD,および薄膜用力学試験装置を組み合わせて構成されるその場観察・解析ナノメカニカルラボに,疲労試験が可能となるソフトウェアを新たに開発・導入することにより,準静的引張負荷に加え疲労負荷条件下において薄膜の破壊過程のその場観察と微視的構造解析が可能となるナノメカニカルラボに高度化させる。これを用いてナノ薄膜試験片の引張試験,破壊じん性試験,疲労試験を実施して,薄膜の機械的特性,強度特性に及ぼす膜厚の影響を明らかにする。 (1)その場観察・解析ナノメカニカルラボを用いて,実用的に重要な銅を標準材料としたナノ薄膜試験片の引張試験を行って弾塑性特性を評価し,バルク材との違いを明らかにする。さらに,破壊じん性試験片の破壊過程のその場ナノ観察・微細構造解析によってき裂先端の局所変形機構を解明する。さらに,引張試験で得られた結果に構造解析で得た微視構造を考慮することにより,ナノ薄膜の弾塑性構成則を検討する。この弾塑性構成則に基づく有限要素法による応力解析を実施し,破壊じん性の寸法効果を局所塑性変形機構と関連づけて考察する。 (2)疲労き裂伝ぱ試験,疲労き裂発生強度評価試験を実施し,き裂進展特性とき裂発生特性に及ぼす膜厚効果を明らかにするとともに,その支配因子,支配力学量を高分解能走査電子顕微鏡その場観察と微視構造解析,およびその解析結果を基にした有限要素解析を基に明らかにする。 (3)粒界の影響を制御,あるいは排除した熱処理材や単結晶ナノ薄膜試験片を用いてき裂進展試験を実施し,強度の寸法効果において結晶粒組織の影響を切り分けた考察を行う。また,表面酸化層や新生面酸化の影響を明らかにするため,金ナノ薄膜に対する実験も実施する。
|