2012 Fiscal Year Annual Research Report
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23246097
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
桑村 仁 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20234635)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 鋼構造 / 座屈 / 破壊 / 塑性変形能力 / 耐震設計 |
Research Abstract |
本研究は,鋼構造部材に座屈と破壊が連成する場合の塑性変形能力を解明することを目的とする。座屈は固有値問題としての座屈ではなく大変形を伴う座屈後挙動を指し,そのうち,破壊と連成する板要素の座屈すなわち局部座屈が主として対象となる。一方,破壊は延性破壊(あるいは部分的に擬似脆性破壊)を指す。延性破壊は鋼材の伸び能力がすべて消費され,全断面に延性き裂が進行したのち破壊する形態である。座屈と破壊の連成現象は,1995年兵庫県南部地震で少なからず報告されているが,まだ本格的な研究が着手されていなかった。座屈と破壊が連成する場合の塑性変形能力を解明して鋼構造物の耐震安全性を格段に向上させることが本研究の目標である。 本年度は,鋼構造建築物で多く用いられる角形鋼管柱の座屈と破壊の連成現象を実験室で再現した。実験装置には高軸力の圧縮と引張の繰返しを与えることのできる5000kN試験機(現有)を用いた。座屈と破壊の連成には,鋼材の材質,幅厚比,載荷パターンが関与するので,これらを実験変数とした(材質2ケース,幅厚比3ケース,載荷パターン4ケースの全24ケース)。角形鋼管は断面内で材料特性が変化するので,材料試験片を細かく採取して,平板部・角部・溶接部それぞれの材料特性を調査した。実験により荷重と変形の履歴曲線,ビデオカメラを使った亀裂の発生進展状況,ひずみゲージによるひずみ分布を計測した。試験後には試験体から破壊部分をサンプリングし走査型電子顕微鏡(新規導入)で破面分析を行い,破壊形態が予想通り延性破壊であることを確認した。前年度の研究で,鋼材が大きな繰返し塑性変形を受けるときの履歴挙動を追跡するための数値解析シミュレータを開発したので,これを用いて座屈を含む大変形履歴を概ね予測できることを確認した。破壊との連成挙動の解析技術は次年度の課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の達成目標は,鋼構造実大部材での座屈と破壊の連成現象を実験室で再現し,その実験データ(荷重と変形の履歴曲線とその曲線上での亀裂の発生進展過程)を得ること,破壊の形態が低サイクル疲労ではなく延性破壊(または擬似脆性破壊)であることを確認すること,昨年度開発した数値解析シミュレータで塑性大変形履歴を追跡できることを確認することであった。これらは,ほぼ予定通り達成することができた。 当初,発生が懸念されていた角形鋼管端部(実験上必要なエンドプレート接合部)からの破壊については防止することができた。これは完全溶込み溶接の品質管理にじゅうぶん注意を払ったからである。 当初,想定していなかった事象としては,幅厚比の小さい角形鋼管に通常の平面板の局部座屈ではなく,円筒の座屈として知られている象足座屈(エレファント・フット・バックリング)が生じたことである。この座屈形態によって延性亀裂の発生点と進展経路も影響を受けることが観測された。4面の平板からなる角形鋼管の局部座屈シミュレーションにおいて,この象足座屈を数値的に再現するには,やや恣意的な初期不整を設定しなければならず,この点が一つの問題点として次年度に持ち越されることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの研究で,実大サイズの部材での座屈と破壊の連成挙動の再現に成功したので,今年度はその分析を行うために材料レベルでの繰返し実験とその数値シミュレーション,および電子顕微鏡での破面分析を行う。具体的には次の通りである。1)多軸状態での繰返し履歴実験:砂時計型試験片を厚鋼板(厚さ40mm)から採取し,その中央部円周に人工ノッチを設け,単調引張および圧縮・引張の繰返し試験(載荷プロトコル10ケース)を行う。ノッチ周辺は多軸応力状態となるので,ノッチ底の直径をレーザ幅計で計測することにより,多軸状態での繰返し応力―ひずみのデータを得ることができる。これを次項の数値解析に供する。2)多軸状態での繰返し履歴の数値シミュレーション:ノッチ付き砂時計型試験片の履歴について有限要素法で数値解析を行う。このとき,圧縮と引張の繰返しによる多軸状態での履歴則としてPragerモデル,Chabocheモデル,Yoshida-Uemoriモデルなどを候補とする。それぞれのモデルには,未定係数が含まれているので,上記試験データから係数値を設定する。多軸状態が刻々変化する実験結果全体を一貫して精度よく再現する数理モデル(多軸応力-多軸ひずみの構成方程式および延性破壊規範式)を決定する。3)破面分析:2年目の座屈-破壊連成実験および今年度のノッチ付き砂時計型実験の破面をサーフィスビュー顕微鏡で観察し,両者の破面形態が共通していること,および破壊進展が数理モデルに適合することを確認する。 以上の実験データ,数値解析データ,および破面解析データを総合して,座屈と破壊の連成の力学的メカニズムを探り,亀裂発生から最終破壊に至るまでの塑性変形能力の評価方法を提案する。これは,本研究の最終年にまとめる予定の「座屈と破壊の連成を考慮した鋼構造の耐震設計」のスキームに組み込まれる。
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Research Products
(9 results)