Research Abstract |
本研究では,高精度第一原理計算と統計力学計算を組み合わせて,酸化物の固溶体構造と物性を評価する新しい計算手法を開発し,具体的にプログラムとして実装,計算を実行する.計算結果の検証と,計算手法の改良を目的として,固溶体試料の合成および評価実験を並行して行い,計算にフィードバックさせる.統計力学計算では,最適クラスター展開手法,ダブルクラスター展開法,自由エネルギーの評価法を開発する.第一原理計算では,GGA+U法やハイブリッド交換相関法による新しい取り扱い手法について精度を検討する.これらの計算手法を等価酸化物固溶体系に適用し,構造と状態図を系統的に算出する.固溶体の磁性とイオン伝導性についての理論的検討も進める.磁性材料の計算にあたっては,イジングモデルを適用してダブルクラスター展開する場合と,ハイゼンベルグモデルに基づく場合とを比較する.イオン伝導性については,陰イオン副格子の欠陥構造を評価する.平成23年度はクラスター展開法の手法開発と固溶体構造,状態図計算を中心に研究を行った.具体的には,遺伝的アルゴリズムを用いた最適クラスター展開やダブルクラスター展開手法を汎用プログラムに組み込んだ.また,格子振動自由エネルギーの計算・安定構造探索のための,フォノン計算を幾つかの酸化物において行った.電子状態計算としては,ハイブリッド交換相関法による計算を多数実行し精度検討を行った.具体的には,II価,III価の等価酸化物固溶体や希土類元素を含む酸化物について,非稠密構造を含む様々な結晶構造についての計算を行った.さらに,磁性元素を含む酸化物固溶体において,開発したクラスター展開の方法を適用し,原子配置・磁性の効果を両方取り入れることにより,基底状態の構造を明らかにした.
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Strategy for Future Research Activity |
現段階では,順調に進展している.今後も研究計画通り研究を推進する予定であるが,研究を遂行する上で問題点が出てくることも予想される.本研究の理論計算において想定される最大の問題点は,クラスター展開の精度不足である.その原因として予想されるのは,(1)電子状態計算における交換相関項の系統的誤差と数値誤差,(2)クラスター展開そのものの精度不足である.本研究で開発した手法に致命的な問題が見つかった場合には,研究対象となる物質数が減ってしまうことはやむを得ない.むしろ将来に繋がる方法論の構築を優先する.
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