2012 Fiscal Year Annual Research Report
固体酸塩基の水和反応を利用する酸化物表面プロトニクス材料の開発
Project/Area Number |
23246112
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山口 周 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10182437)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三好 正悟 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30398094)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 表面・界面物性 / プロトン伝導 / 固体酸 / Lewis酸 / 電気二重層 |
Research Abstract |
本研究ではナノ粒子から構成されるバルク体および薄膜を,それぞれゾルゲル法などの溶液合成法(化学的方法)と反応性スパッタなどの物理的方法により合成し,その表面の酸塩基と酸化還元を同時に利用することにより、中低温で高いプロトン伝導性等の多様なプロトン活性を有する酸化物表面を創製することを目的としている. ナノ粒子バルク体については、ZrO2系試料に対して気相化学種(CO2、SO2)を用いた表面修飾がイオン伝導性に与える影響を検討した.試料雰囲気にCO2を添加した場合、高温域における酸化物イオン伝導度は影響を受けないが,150℃~室温付近で観測されるプロトン伝導度は1vol%のCO2添加であっても著しく低下することを見出した。これと対応する条件においてin-situ FT-IRによる評価を行ったところ,CO2導入により生成する表面化学種は主に炭酸基であることが明らかとなった.このことから、弱酸であるCO2が酸化物表面の強塩基性サイトと強く結合して炭酸基を生成するためにプロトンの解離能が低下して伝導度が低下したと考えられる.また、試料雰囲気にSO2を僅かに添加するとプロトン伝導度は測定限界以下に低下した. 薄膜試料については,非晶質Ta酸化物(a-TaOx)について水蒸気含有雰囲気におけるRFスパッタにより製膜を行い,水和a-TaOxを作製して配位構造および脱水挙動と酸素量(O/Ta比)の関係を調べた.その結果,酸素欠損組成(O/Ta<2.5)では水和によりTaO5に対するTaO6配位多面体の割合が増加し,昇温により脱離するガスはH2であった.一方,酸素過剰組成では水和による配位構造の変化は僅かであり,昇温によりH2O,O2の順にガスを放出して酸素過剰を解消する挙動が確認された.以上により,a-TaOxにおける水和挙動は酸素量により大きく異なることが明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナノ粒子バルク体については,ゾル-ゲル法を用いたソフト化学的方法により合成したZrO2系およびCeO2系ナノ粒子を超高圧(4GPa)室温プレスすることによりバルク体を合成し,高いプロトン伝導が発現することをACインピーダンス測定と伝導度の同位体効果などから確認している.イオン伝導は500℃以下で少なくとも4種類の異なる見かけの活性化エネルギーを有していること,プロトン伝導が優勢と思われる温度域では水蒸気分圧依存性を有することなどが分っており,さらに気相化学種による表面修飾がプロトン伝導度に大きな影響を与えることを見出している.特に,CO2雰囲気におけるプロトン伝導度の低下現象は,表面酸・塩基性が大きく関与する表面におけるプロトン解離・移動のメカニズムの解明に迫る重要な知見である. 薄膜試料系については,様々なTa/O比を有する非晶質TaOx膜(a-TaOx)を合成し,その物性についてXPS,硬X線光電子分光法(HX-PES)ならびにO1s軟X線吸光分光(SX-XAS)により,フェルミ準位付近の電子構造が酸化還元によって変化する様子や酸素配位多面体の変化をRaman分光により観察している.その結果,a-TaOx薄膜の直流分極による被酸化・還元性はプロトン含有量に強く依存し,水和a-TaOxにおいてはプロトンがメディエーターとなり酸素過剰組成を取ることが可能であることが分った.また,上記の今年度におけるa-TaOxの配位構造および昇温脱離挙動はこれと対応したものであり,酸素不定比性に対応した酸・塩基度により水和メカニズムやプロトン・水の安定性が大きく異なるという知見が得られている. 以上の様に,固体表面における酸・塩基性制御による表面プロトニクス材料の設計指針構築へ向けて順調に成果が得られている.
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Strategy for Future Research Activity |
ナノ粒子バルク体に関しては,表面修飾が伝導特性・表面吸着に及ぼす影響を継続して検討するとともに,1H MAS-NMR測定によりプロトンの化学状態について検討する.また,表面酸・塩基性を制御するために化学ドーピングを施したTiO2ナノ構造体を作製し,表面吸着の変化とイオン伝導度の関係を調べる.TiO2はバルクの性質として電子伝導性を有し,常温超高圧合成で形成される粒子間に形成される表面水和チャンネルによるイオン伝導と粒子接触を通じて形成される電子伝導パスによる混合伝導が期待される.また,TiO2はバルクの特性としてイオン伝導性が殆どないという特徴があり,ZrO2、CeO2系の表面プロトン伝導性がバルクにおける酸化物イオン伝導特性に影響を及ぼしている可能性があることから,TiO2との比較により表面プロトン伝導機構の解明に迫る重要な知見が得られると期待される. 一方、物理的方法によって形成する酸化物薄膜においては,ナノ粒子バルク体の検討対象としている物質系に加えてa-TaOxを引き続き取り上げるとともに,ナノ粒子バルク体について行っている表面修飾の効果の検討も行い,表面プロトン伝導性の発現機構解明にあたる.特に,CeO2系薄膜については反応性スパッタによる製膜条件の検討が進んでおり,熱処理温度によってイオン伝導特性が大きく変化するという予備的結果を得ているため,この系における表面プロトン伝導性を重点的に検討する.さらに,雰囲気制御型軟X線光電子分光測定を行い,酸素の内殻スペクトルに着目して水の吸着・脱離をその場観測して電子構造の変化を観察するとともに,電圧印加硬X線光電子分光測定により酸化物薄膜中のプロトン・酸素量とイオン伝導性,電子状態および酸化・還元特性の関係を明らかにする.
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