2011 Fiscal Year Annual Research Report
タンパク質複合体形成過程の分子シミュレーションによる遭遇複合体の役割の解明
Project/Area Number |
23247027
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
木寺 詔紀 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 教授 (00186280)
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Keywords | 生物物理 / 構造・機能予測 / 遭遇複合体 / タンパク質間相互作用 / 分子シミュレーション / 拡張サンプリング / 経路探索 / 自由エネルギー |
Research Abstract |
タンパク質-タンパク質複合体の形成過程を水中での全原子モデルに基づいた精密なシミュレーションで研究することを目的として、23年度は計画遂行のための方法論の確立を進めた。 (1)MSES法:方法論の確立のために、水中でdisorder領域を含むタンパク質sortaseのMSESシミュレーションを行い、タンパク質全体の通常のサンプリングとdisorder領域の拡張されたサンプリングを同時に行うことに成功し、MSES法の大規模系への適用が成功した。タンパク質-タンパク質複合体形成のシミュレーションとして、その第一段階として相互作用に伴う構造変化が最も少ない系として、Barnase/Barstar系を選択し、そのMSESシミュレーションを行った。基本的にそのシミュレーションは十分に遅い緩和時間に対応できるようなシミュレーションをすれば、側鎖の緩和を含んだタンパク質複合体の形成をさせることが可能となり、ほぼ十分にタンパク質複合体のMSESシミュレーションが可能であることが分かった。しかしながら、ただ一つのアミノ酸(Asp39)については、その正しい複合体の側鎖構造への緩和が起こらず、高いエネルギー状態を維持した。このアミノ酸については、Alaへの変異体が複合体を著しく不安定化することが知られており、その結晶構造も野生型とは若干異なっている。従って、この側鎖構造の緩和こそが、遭遇複合体→生状態複合体への遷移に関わる障壁となっていることが明らかとなった。 この問題を解消するよう、方法論を精密化する必要があることが課題として残った。 (2)経路探索法:方法論の確立のために、Adenylate kinaseの構造変化について、水中でOn-the-fly String法を用いた計算を行い、その自由エネルギー経路を求めることに成功した。これによって、水中の大規模系での経路探索が現在の方法論で実行可能であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
受理された際に、研究費の削減を受け、昨年度は研究員を雇用することができず、研究の進展が限定的となった。また、上記の側鎖緩和の問題が生じ、これまでの単純なプロトコルが適用できないことが分かったことも停滞の理由である。今年度は1名の研究員の雇用ができたため、研究を加速させていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上に記したように、側鎖の緩和が予想以上に遅い場合があり、それへの対処法を考える必要がある。また逆に、その最も困難な部分こそが、遭遇複合体と生状態複合体との間の障壁を作っていることが分かったことから、最も本質的な問題に到達したとも言える。具体的な対応策は、側鎖ロータマー間の遷移の促進であるが、拡張サンプリングをする自由度の増大は、ハミルトニアン交換法の実行を困難にするところから、その実行は必ずしも容易ではない。問題はMSES法に限定されず、経路探索法でも重大な問題として関わってくる。従って、今年度1年間をかけて解決すべき、重大な問題であるという認識である。
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