2011 Fiscal Year Annual Research Report
東南アジア・オセアニアにおける現生人類の拡散移住史
Project/Area Number |
23247040
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
松村 博文 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (70209617)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
斎藤 成也 国立遺伝学研究所, 集団遺伝研究部門, 教授 (30192587)
徳永 勝士 東京大学, 医学系研究科, 教授 (40163977)
篠田 謙一 独立行政法人国立科学博物館, 人類研究部, 研究グループ長 (30131923)
印東 道子 国立民族学博物館, 民族社会研究部, 教授 (40203418)
山形 眞理子 昭和女子大学, 国際文化研究所, 研究員 (90409582)
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Keywords | 人類学 / ゲノム / 考古学 / 形態 / 進化 / 解剖学 / 国際研究者交流 / 先史時代 |
Research Abstract |
形態学研究では、以前から着手していたベトナムのマンバック遺跡の人骨の分析結果の集大成を収めた報告書がANUから出版された。この遺跡は東南アジア人の重層構造モデルを証明する鍵となるものであり、その重要性が世界に発信された。頭骨と歯の形態についてのデータベースも着実に進行しており、本年度は中国からも新石器時代の新資料とデータを収集することができた。遺伝子研究では、HUGO(ヒトゲノム研究機構)が報告したアジア系71集団のゲノムワイド多型データについて、血縁関係にある試料および全試料の配列が決定され、公開データベースに追加された。また、この解析により、インドネシア集団とパプア集団の混血時期は4~3千年前と推定された。ミトコンドリアの塩基配列については、マレーシアの4集団について解析がなされた。ミトコンドリアDNAの解析結果と既発表の東南アジア集団についての大規模SNPデータを再解析した結果、両者は同様の傾向が見受けられることがわかった。先史人骨のミトコンドリアDNAについては、ベトナムのAn Son遺跡、Go Cha遺跡Giong Ca Vo遺跡出土人骨から分析用試料を収集した。より断片化したDNAでも解析が可能なPCR-Luminex法を開発したので、解析は次年度に実施予定。考古関係では、ベトナム中部のホアジェム遺跡(鉄器時代)の甕棺墓がフィリピンの遺跡と同型式の土器を伴っていることがわかり、オーストロネシア語族の南シナ海を越えたダイナミックなヒトの移動が示唆された。また中国の広西、湖南、漸江省にて、稲作初源期に関係する新石器時代遺跡の資料調査を実施した。オセアニアの海域へのヒトの移動については、ファイス島で行った発掘資料の整理すすめ、人骨のDNA分析および動物骨の同位体分析を、それぞれ専門家の助力を得て行っており、これまで考えられてきた移動の様相とは異なる結果が得られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は一次資料も含めデータ収集を広範囲かつ可能な限りの規模でおこなう必要があり、資料や分析用サンプルがアジア、オセアニアなど世界各地に散在するため、各専門領域における詳細な分析に耐えうるデータベース構築に着手している。人骨形態のデータの採取は各地の大学、博物館等に保管されている人骨を対象としているが、2年目の計画していた中国などでの出土人骨を分析も実行している。DNAについても、マレーシア集団の検体をはじめとするアジア人はもちろん先史古人骨資料からのサンプリングにより、ゲノム全域にわたるSNPやハプロタイプの解析、およびミトコンドリアD-roop領域を含む塩基配列の決定とその解析が進んでいる。考古学的データについても土器型式や装飾品、年代についての情報収集が計画どおり進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
形質人類学的手法としては、タイの新石器時代人(バンノンワット等)を中心に中国の先史人骨も含め人骨調査をおこなう。また脱アフリカ新人の東南アジアへの移住を解明するうえで要となる化石人骨の形態データも採取する予定。ゲノム関係では、東南アジアや東アジア集団の検体の収集と分析を行うとともに、この時点ですでに公開されている予定の1000人のゲノムのデータについて、数十万種以上のSNP領域における高密度多型解析を実施する。古人骨DNAについてもベトナムと中国の先史人骨試料の解析を進める。古人骨試料のサンプルの保存状態があまり良くない場合は、通常のPCR法ではなく、より断片化したDNAでも解析が可能なPCR-Luminex法を用いる。考古学関係では、稲作の伝播問題に関連した東南アジア各地での資料調査を継続する。また台湾起源とされるオーストロネシア語族の移動を証明する鍵となるベトナムのホアジェム遺跡の資料の研究成果を出版する予定。オセアニア関係では、西部ミクロネシアなどの太平洋への先史拡散データを収集分析し、拡散元と考えられる東南アジア島嶼部との比較において検討を進める。またファイス島で行った発掘資料の整理すすめ、人骨のDNA分析および動物骨の同位体分析の結果をまとめて発表する。加えて、人類の海域世界への移動背景を明らかにするため、自然環境、特にENSOの影響による長期的変化との関連について考察を進める。
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