2011 Fiscal Year Annual Research Report
アルタナリア病原菌の植物寄生性を決定するCD染色体の進化的起源と成立機構
Project/Area Number |
23248007
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
柘植 尚志 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (30192644)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
児玉 基一朗 鳥取大学, 農学部, 教授 (00183343)
花田 耕介 独立行政法人理化学研究所, 植物科学研究センター, 研究員 (50462718)
|
Keywords | 植物病理学 / 菌類 / 植物 / 遺伝子 / ゲノム |
Research Abstract |
先に、宿主特異的毒素を生産するAlternaria alternata病原菌のうち、イチゴ黒斑病菌、リンゴ斑点落葉病菌、トマトアルターナリア茎枯病菌の毒素生合成遺伝子(TOX)クラスターをコードする小型CD染色体の構造を決定し、TOX領域以外の構造が保存されていること、すなわち同一起源であることを見出した。CD染色体の進化的起源と進化過程を探るために、今年度は主に以下の研究を実施した。 1.CD染色体の構造類似性の確認(共同): リンゴ菌とトマト菌の他の菌株について、TOXをコードする小型染色体の塩基配列を解析した。両病原菌のそれぞれ1株について、パルスフィールド電気泳動ゲルからTOX染色体を回収し、ロッシュGS FLXによって塩基配列を決定した。得られたコンティグから、先に同定したCD染色体の共通領域と高い相同性を示す複数のコンティグが見出され、CD染色体の構造類似性が確認された。 2.CD染色体の起源染色体の探索(代表者柘植・分担者児玉): 腐生的(非病原性)A. alternata菌株がCD染色体の起源となった小型のdispensable染色体を保有すると予想された。そこで、腐生的菌株群の電気泳動核型を解析したが、小型染色体を保有する菌株は見出されなかった。一方、リンゴ菌の保存菌株から、CD染色体プローブとハイブリダイズする2本の小型染色体を有するO-6112株を見出した。これら2本の染色体のうち、片方にのみTOXがコードされていることが明らかとなり、もう片方の小型染色体がTOX染色体の起源染色体である可能性が見出された。 3.CD染色体の分子進化学的解析(共同): CD染色体にコードされる遺伝子の再アノテーションを行い、全遺伝子のエクソン・イントロン構造、データベース相同性解析、各種培地における転写パターンなどをカタログ化し、データベース構築の準備を進めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、リンゴ菌とトマト菌の他の菌株について、CD染色体の塩基配列を決定し、菌株間で構造を比較した。その結果、これらCD染色体のTOX領域以外の構造が保存されていることが確認された。当研究グループでは、CD染色体には共通な起源染色体が存在し、その染色体にそれぞれ異なる毒素を生産するためのTOXクラスターが組み込まれたという、CD染色体の進化的起源と進化過程を想定していた。上記の結果は、これを支持するものである。 これまでのところ、CD染色体の起源となった小型のdispensable染色体を保有する腐生的菌株は見出されていないが、リンゴ菌の保存菌株から、TOX染色体に加え、その起源となった可能性のある小型染色体を併せ持つO-6112株を見出した。この重要菌株の詳細な解析を実施する必要が生じたため、研究費の繰り越し申請を行った。O-6112株の病原性と毒素生産性の確認、パルスフィールド電気泳動による電気泳動核型解析、ハイブリダイゼーションによるTOXとCD染色体保存領域の分布の確認などを実施した後、両染色体のドラフト配列を決定し、平成24年度にその詳細な解析を行った。 CD染色体にコードされる全遺伝子のエクソン・イントロン構造、データベース相同性解析、各種培地における転写パターンなどを整理し、CD染色体の分子進化学的解析を行うための準備を整えた。さらに、各遺伝子の分子系統学的解析を開始した。 以上のように、当初計画した研究はほぼ順調に成果が得られており、さらにリンゴ菌の保存菌株からCD染色体の起源となった可能性のある小型染色体を併せ持つ菌株が見出されるなど、当初予想していなかった新たな知見も得られ、研究はおおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度ドラフト配列を決定したリンゴ菌とトマト菌のCD染色体については、PCRによってコンティグ間を連結し、保存領域全体のシンテニーを解析することによって、CD染色体の構造類似性をさらに確認する。また、リンゴ菌O-6112株の2本の小型染色体については、すでにアセンブルは完了しているが、コンティグ間を連結するとともに、両染色体、さらにこれまでに決定したCD染色体との詳細な構造比較を行い、O-6112株のTOXをコードしない小型染色体がCD染色体の起源染色体であるかどうかを検証する。 全長配列を決定したイチゴ菌、リンゴ菌、トマト菌のCD染色体の全遺伝子について、分子系統学的解析を行い、TOX群、他のCD染色体遺伝子群、さらにCD染色体の進化的起源を探る。 これまでに実施したCD染色体遺伝子の分子系統学的解析によって、TOX以外の多くの遺伝子が主要染色体にコードされる遺伝子の重複によって生じた可能性、すなわちこれら遺伝子あるいはその領域が主要染色体起源である可能性が示された。この可能性を検証するために、イチゴ菌、リンゴ菌、トマト菌、さらに非病原性A. alternata菌株のゲノムドラフト配列を決定し、それぞれのCD染色体と主要染色体との配列比較、また病原菌間でのゲノム配列比較を行う。 リンゴ菌から、AM毒素生産に必要な全遺伝子を含むBACクローンを単離している。そこで、このBACクローンをA. alternataの腐生的菌株、他の病原型、さらに他種菌に導入し、宿主特異的毒素、さらにCD染色体に依存した病原菌化の実証を試みる。
|
Research Products
(21 results)