2012 Fiscal Year Annual Research Report
ガ類のメス及びオス性フェロモン交信システム進化のダイナミクスを探る
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23248008
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石川 幸男 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (60125987)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松尾 隆嗣 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (70301223)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | アワノメイガ類 / フェロモン交信系 / 不飽和化酵素 / 進化 / ヘアーペンシル / 嗅覚受容体 / フェロモンリセプター |
Research Abstract |
1.国内産アワノメイガ類5種(アワノメイガ、アズキノメイガ、ユウグモノメイガ、ゴボウノメイガ、ウスジロキノメイガ)のヘアーペンシルの抽出物を調製してGC-MSを行い、仮説に基づき同種のメス性フェロモン分子に類似の成分を探索した。抽出物のGC-MS分析の結果、試験したすべての種で飽和成分16:OAcと不飽和成分Z9-16:OAcとZ14-16:OAcが分泌されている事を確認した。確認された三成分の比率は、試験した種のいずれも飽和成分が最も多く(約60-90%)、不飽和二成分の比率が種毎にわずかに異なっていた(約10-30%)。不飽和成分のうち、Z14-16:OAcについてはアワノメイガ、アズキノメイガは全体の10%程度であったが、ユウグモノメイガは18%,ウスジロキノメイガは20%を超えた。この結果より、雌雄のフェロモン生合成に関与する不飽和化酵素、特に14位不飽和化酵素(⊿14)がフェロモン交信に重要であると思われた。 2.アワノメイガの触角でメス特異的に発現している嗅覚受容体(odorant receptor, OR)を発見するため、雌雄の触角で発現している遺伝子をRNAシーケンスにより網羅的に解析した。我々がこれまでオスから同定していたOR1~OR8のほか、多くのOR候補を発見することができた。また、この中にメス特異的なものを1つ発見することができた。 3.ウスジロキノメイガのΔ11不飽和化酵素遺伝子latpg1のゲノム上の周辺の配列を調べたところ、同属のヨーロッパアワノメイガと同様に不飽和化酵素をコードしていると思われる遺伝子が3つ並んでいた。ウスジロキノメイガとヨーロッパアワノメイガでは、実際に転写されている遺伝子が異なっており、相同遺伝子のうち1つが選択的に利用されているらしいことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
オスのヘアーペンシル抽出物の化学分析については、アワノメイガ類5種についてほぼ予定通り行うことができた。この抽出物にオス性フェロモンとしての活性があるかどうかを判別する生物検定を繰り返しているが、今のところウスジロキノメイガとアワノメイガの2種では活性はみられていない。近縁種のヨーロッパアワノメイガでは活性があるという論文が出ているが、我々の実験結果はこれに否定的である。ただし、「活性がない」という証明は難しいので、さらなる検討を加えているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
ヨーロッパアワノメイガでは、オスのヘアーペンシル抽出物に性フェロモン活性があるとされているが、今のところ、日本産の近縁種にはこの活性がみられていない。日本産の種の配偶行動にはオス性フェロモンが関与していないことをデータを積み上げて実証する。近縁の間で、オス性フェロモンの利用に差があるのは大変興味深く、比較解析はオス性フェロモン交信系の進化に新たな視点を加えることができると考えている。 研究計画の立案の段階から、日本産のアワノメイガ類にはオス性フェロモン活性がない可能性についても考慮していたので、オスとメスで生産される性フェロモン様物質が異なるメカニズムの解明に的を絞って研究を進めている。オスとメスで同じ遺伝子セットを持ちながら異なる生合成酵素が選択的に発現していることがこの研究で明らかになってきており、この解明は蛾類におけるフェロモン交信系の理解のうえで重要な知見を与えると考えている。
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Research Products
(3 results)