2012 Fiscal Year Annual Research Report
東北アジアにおける辺境地域社会再編と共生様態に関する歴史的・現在的研究
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23251003
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
岡 洋樹 東北大学, 東北アジア研究センター, 教授 (00223991)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
馬 紅梅 松山大学, 経済学部, 准教授 (40389193)
柳澤 明 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (50220182)
堀江 典生 富山大学, 極東地域研究センター, 教授 (50302245)
佐藤 憲行 東北大学, 東北アジア研究センター, 専門研究員 (50534179)
中村 篤志 山形大学, 人文学部, 准教授 (60372330)
井上 治 島根県立大学, 総合政策学部, 教授 (70287944)
雲 和広 一橋大学, 経済研究所, 教授 (70314896)
今村 弘子 富山大学, 極東地域研究センター, 教授 (80234011)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ロシア / 中国 / モンゴル / 移民 / 地域社会再編 |
Research Abstract |
本年度は、第一変動期班・第二変動期班ともに現地での文献資料調査及び聞き取り調査を継続した。第一変動期班は、主としてモンゴル国立中央アルヒーフ所蔵文書の調査を実施した。研究代表者岡は19世紀末~20世紀初頭の庫倫弁事大臣文書・フレーのセツェン・ハン部駐班処のモンゴル文文書による社会動向の調査、井上治は同時期のモンゴル西部のカザフ族の動向に関する文書調査及び現地での聞き取り調査を実施した。柳澤明は八旗の様々なエスニック集団の移動に関する文書調査を、中村篤志は内モンゴル東北部フルンブイルの遊牧社会の構造に関する調査を、佐藤憲行は清末のフレーに関する文書資料の解読を行った。第二変動期班は、今村弘子が中国東北部においてロシアへの労働力輸出に関する聞き取り調査、堀江典生がロシアにおける中国人のディアスポラ性に関するロシアの言論状況の調査を行った。雲和広は中央アジアタジキスタンからロシアへの労働移民と、同国経済に占める仕送り金の意義に関する研究を行い、馬紅梅は黒竜江沿岸の中露国境地帯ロシア側における中国人市場の状況について、現地調査を実施した。これらの研究成果は、第一変動期と第二変動期における労働力移動・人口移動の多面的な比較が有意義であることを展望せしめるものである。研究分担者は、3月に開催した中間報告会で調査の成果を持ち寄り、報告を行うとともに、得られた知見について意見交換を行った。特に両時期において労働力の移動が類似した構図を示すことや、人の移動が受入側社会に生じさせる排他的傾向における共通点を指摘することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、19世紀末~20世紀初頭の清朝の動揺による辺境部における統治の弛緩とこれによる人の移動によって特徴づけられる第一変動期と、20世紀末の社会主義体制崩壊後のロシアの市場経済化と経済発展をとげる中国などからの人の移動によって特徴づけられる第二変動期を、大国統治の動揺による流動性の増大という観点から比較検討することを目的としている。これまでの二年間の調査と得られた知見を現時点で総合すれば、第一変動期においては清朝の北方辺境部において、清朝の統治カテゴリーを超えた人口の移動、とくに内地漢人の辺境部への入植・進出、そしてこれによる受入側社会における共生・対立様態の出現が看取され、このことが、既存の統治カテゴリーとは異なる新来の移民の位置づけを要請せしめたことが知られ、第二変動期班の研究においても、主として中国や中央アジアなどからの労働移民の送出の構図が明らかになるとともに、受入側のロシア・シベリア社会において移民が占める位置について、カテゴリカルな議論を巻き起こしていること、合法と非合法の狭間で独特な市場が形成されつつあることが報告された。これまでの調査で浮かび上がった問題点としては、第一変動期におけるモンゴルや第二変動期におけるロシア・シベリア及び極東における経済的周縁性が、送出側からの労働力を引きつけ受容し、新たなカテゴライゼーションによって共生が確保されていくメカニズムを、より具体的に比較しつつ、理解を深める必要があることを挙げることができる。また百年の時間的開きのある二つの時期のそれぞれの特徴についても、より議論を深める必要があると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの達成に鑑みて、今後の研究の推進方策としては、これまでの調査を継続するとともに、第一変動期と第二変動期のより総合的な比較検討を進めていく必要がある。そこで本年度は、合同の研究討論会を開催し、外部の研究者の知見も取り入れながら、研究課題全体の総合的とりまとめへ向けた活動をする方針である。そのために、今年度中に二回の討論会を開催し、この問題に関する議論を深めたい。最終年度には、調査での協力を得たロシア、中国、モンゴルなどの研究者を交えた国際シンポジウムの開催を予定しており、本年度の討論会はその準備作業としての位置づけとなる。第一変動期班の資料調査に関しては、今年度からモンゴル国立中央アルヒーフが移転のため一時閉鎖されるために調査に限界が生じるが、この点は現地研究者との交流を通じて、現地での人口移動に関する学術的見解を吸収する方向で進めたい。 これに関わってこれまでに浮かび上がってきた重要な論点として、移民との共生を模索する上で、受入社会側が移住者に与えるカテゴリーの創出の問題がある。体制の弛緩にともなう人口移動は、既存の統治カテゴリーを超えた「不法移民」を必然的に含むものとなる。しかし変動によって生じた新たな現実は、「不法性」の解消を移民の排除によってではなく、むしろ不法性自体の解消のための新たなカテゴリー創出へと向かわせるように思われる。しかしこのカテゴリー化は、受入社会における排除や差別の論理としても提起される面があり、これが共生の論理に進むためには、さまざまな政治的危機を経ることになるだろう。これは20世紀前半において、少数民族の独立運動や列強の介入など東北アジアの動乱の背景ともなった問題であり、歴史的・現在的な意義は大きいと思われる。かかる観点から、第一変動期と第二変動期を総体として位置づけることを、今後の研究の方向としたい。
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Research Products
(38 results)