2013 Fiscal Year Annual Research Report
クメール都市空間像の探求-アンコール・トム中央寺院バイヨンの発掘調査を中心に-
Project/Area Number |
23251017
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
山本 信夫 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (30449342)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平尾 良光 別府大学, 文学部, 教授 (40082812)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 考古学 / ベトナム陶磁、タンロン遺跡「国際情報交換」 / アンコール遺跡群 / アンコール・トム / バイヨン寺院 / 貿易陶磁 / 鉛同位体分析 / 石材採掘地 |
Research Abstract |
平成25年度は、(a) 既往調査記録の整理(遺跡、遺構、遺物、各詳細図の作成と検証)、考古編年の構築に有効な資料抽出、(b) バイヨン後期の寺院外郭域における遺構配置解明のための発掘調査、および石材採掘遺跡の調査、(c)航空地形測量データに基づく都城アンコール・トムおよび都城外の水路、道路など、広域に及ぶ都市形態の基礎的解析、(d)自然遺物、漆製品、金属製品、鉛同位体分析など、生産、技術、流通の解明に結びつく試料抽出と解析、金属遺物の保存処理に向けた基礎目録作成の以上4項目を中心に進めた。 また、資料の年代や材質などの比較について国内都市遺跡出土品の調査を行い、上記4項目を補った。 具体的には(a)は通年作業として進めながら、(b)のフィールド調査を行い、(c)の地図データ資料を加え、都市像の各時代的特色を押さえるための資料化作業を重点的に行った。(d)は遺物の種類により材質・技術研究、保存状態が異なるため、保存処理については基本的にはカンボジア内で進めるが、設備や高度技術管理が必要となる遺物は調査後、日本国内で行った。継続調査によって考古資料も各様なものが大量に蓄積されており、カンボジア人若手考古学者の技術力量も上がっているが、さらに高度な研究に向けて多様な技術習得や組織力も必要となっている。 発掘調査(b)はバイヨン寺院の外郭南東部を継続し、外回廊東面側と東参道の交叉する外側、東参道東辺部・南辺部、南池中央部の3箇所で行った。この結果外回廊基礎は東参道基礎より先行して造成された点が明らかとなる。南池中央部調査の結果では池底部は全面ラテライト敷と考えられ、さらに砂岩3段を積んだ方形プランの構築物が確認された。この中心部は小石室となり、亀形砂岩製彫刻、円形鉛容器、金箔、水晶、鉄器、銅板、金属板(錫か)などの鎮壇具が出土した。国家寺院バイヨンの水に関わる祭祀の一端が判明し、今後追究を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)フィールド調査では寺院建設に先立つ地盤整備の設計、施工方法にも注目している。最終整地段階での切り出したままの砂岩材の使用を確認し、寺院建設で大量に使われた砂岩材の採掘地・運搬路の地表調査を実施した。また基壇内の版築工事で使われた砂についてはその粒度や水棲生物骨針の分析により川砂を利用したことが判明している。以上のとおり寺院外の調査も加え、限られたバイヨンの分析から広域な都市造営の一点に迫る事も不可能ではなかろう。寺院東側外郭の基本的配置をなす東参道、外回廊の外辺部、南池の詳細は基本的な点が押さえられたが、東参道入口(東側)は数次に及ぶ改変を行った事が明らかで、この解明について今後調査範囲を広げる必要があり、現状では最新遺構面で調査を終え埋め戻している。また前年度調査では南側外周壁内の最上層にラテライト列が検出され、これらは追加施設計画を示す可能性および未完成に終わった事も考慮され、今後注意したい。 (2)現地カンボジア人専門家に対する発掘調査・整理から報告書作成までの技術指導は段階的にレベルを上げている。しかし平成23~25年度の発掘調査の出土遺物量が多く、図化作業に相当時間を要するため、分析・解釈の深部に達するための時間はやや不足している。その解決のためには室内整理・図化作業を分担できる技術作業者の養成も必要であり、今年度は少人数でも確保したい。 (3)遺物の多くは土器・陶磁器で瓦がこれに次ぐ。貿易陶磁には中国、ベトナム、タイ産などがあり、これらの分析では年代推定以外にも交易や流通、使用された場や階層性などの類型化が可能で、都市内消費傾向の定量分析となる。金属、漆、自然遺物の分析はそれぞれ別の視点から、生産、技術、食文化について都市像の一部を導き出す事が可能で、これには日本人の保存処理、化学分析、漆・布材料分析、栽培農業の各分野の応援を得ながら、調査・分析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には、引き続きアンコール遺跡群での継続的なフィールド調査(現地で遺物の整理・分析作業を含むバイヨン寺院とその周辺の発掘調査等)を主な研究活動とし、考古資料の整理、収集等を中心とした国内作業でこれを補うこととする。最終報告では東南アジア全域における交易プロセスの解明もめざし、他の考古学サイトへの踏査や、国際的研究者との討議をより活発に進める。 具体的には以下の6項目を基軸とした調査・作業を実施する。 (a) 既往調査記録の整理、考古編年構築に向けての記録作業、目録作り(遺跡情報の整理、既往発掘地点の配置図作成、既往発掘地点の現地確認と遺跡環境の把握および既存の報告書との照合)については、担当するカンボジア人専門家に一定の力量が認められるため、通年してカンボジア人専門家が作業を行い、日本人専門家が適宜チェックを行うようにする。(b) バイヨン寺院伽藍内外における発掘調査については、寺域内外の南東部、北東部及び東正面の参道と門周辺に調査範囲を広げ、アンコール都市建設過程における資源、資材供給システム等に対し、より深い解明を目指す。(c) サンプリングした自然遺物、金属遺物の輸送、分析と金属遺物の保存処理。(d) カンボジア人若手考古学者への技術移転及び国際学会への参加、発表。(e) 近隣周辺諸国との中国陶磁の比較調査。(f) 学会発表、シンポジウムの開催、成果報告書の作成等。(g) 調査成果の公開については、遺構、遺物の整理が終了し、日本で行っている遺物保存処理終了後に、随時期間を設けて対処していく事を考える。可能な限り本物の出土品展示による実感味を体験してもらう事が効果的であり、保存処理が終了した遺物も対象とする。今回出土のバイヨン南池における祭祀と鎮壇具などは、カンボジア人の自国への歴史的愛着を深めるよい例となろう。
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Research Products
(3 results)