2012 Fiscal Year Annual Research Report
省メモリ計算モデル上でのアルゴリズム設計技法の開発
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23300001
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
浅野 哲夫 北陸先端科学技術大学院大学, 情報科学研究科, 教授 (90113133)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | アルゴリズム / 省メモリ / 計算幾何学 / 作業領域 / 計算複雑度 |
Research Abstract |
アルゴリズムの研究分野では,従来から作業領域のサイズと計算時間の関係について様々な角度から研究が行われてきた.ディスクに代表される外部記憶装置とのデータ転送回数に注目したアルゴリズム設計法や,キャッシュのサイズを知らなくてもキャッシュを効果的に利用できるアルゴリズム(Cache Oblivious Algorithm)などが研究されてきた.また,ネットワーク時代のオンラインデータ処理を対象としたストリーム・アルゴリズムの研究も盛んに行われている. このように,メモリと計算時間の関係は常にアルゴリズム研究における中心的な関心事であった.本研究では,現在の計算環境を反映した新たな省メモリ計算モデル上で,効率のよいアルゴリズムを開発するための一般的なアルゴリズム設計技法の開発を行った. 昨年度までは定数作業領域のアルゴリズム開発に力を注いだが,実用的な見地からは制約が強すぎるということで,もう少し多くのメモリを使用するアルゴリズムの開発に研究の対象を移行した.具体的な課題としては,多角形内での最短経路問題がある.n頂点の単純な多角形が与えられたとき,これに前処理を施してO(s)のサイズのデータ構造を構成しておくことにより,最短経路の計算をO(s)倍だけ高速化できることを示した.この結果は国際会議に発表済である.また,画像処理に関する問題については,画素数の平方根程度のメモリを使うだけで,重要ないくつかの問題が効率よく解けることを示した.中でも連結成分ごとに異なる整数ラベルをつける問題についてはO(n log n)時間のアルゴリズム設計に成功した.国際会議で発表したところ,高い評価を受け,特集号への招待を受けた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究を開始した段階においては省メモリアルゴリズムの大半が定数作業領域のものであり,制約が厳しすぎるという問題があった.昨年度は,一般にO(s)の作業領域を用いた場合に,O(1)の作業領域を用いた場合の計算量をO(s)倍改善できるかに焦点を当てて研究を行った.その結果,平面上における線分交差判定,交差線分列挙問題に対して効率の良いアルゴリズムを開発することに成功した.また,単純な多角形に対して前処理を行うことによりO(s)の重要な情報を獲得しておくと,2点間の最短経路問題がO(s)倍高速に解けることも示した.データ構造とは入力データを検索に都合が良いように加工するというのが従来の考え方であったが,重要な情報を少しだけ取り出しておいて,その分高速化を図るという考え方は斬新である.その意味で,計算幾何学に関連する部分については当初の計画よりも大きく前進している. 本研究では,計算幾何学への応用だけでなく,基本的な画像処理問題への応用についても対象としている.昨年度はディジタル幾何学において最も重要な問題とされる連結成分ラベリング問題に取り組み,画素数の平方根程度,すなわち画像の数行分のメモリだけを用いるだけでO(n log n)時間の高速アルゴリズムを設計することができた.この成果は国際会議でも高く評価され,この点でも当初の研究計画を超える成果を得ている.
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Strategy for Future Research Activity |
ここまで順調に研究は進んでいる.今年度は特に課題のテーマで国際ワークショップも計画しており,ますます多くの研究者が省メモリアルゴリズムに関する研究に取り組んでくれることを期待している.具体的な研究課題としては,作業領域のサイズと計算時間の関係について更に深く考察することである.大きな作業領域を使えば高速化できると思われるが,実際にはこの素朴な期待は実現困難であることが多い.というよりも,この素朴な期待が成り立つ計算問題があまり見つかっていないという現実がある.そこで,今後は作業領域と計算時間の間のトレードオフの問題に研究の重点を移し,この枠組みに入る計算問題のクラスを特徴づけることと,このクラスの多くの問題に適用可能な一般的なアルゴリズム技法とデータ構造を開発することを研究目的としたい.
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