2012 Fiscal Year Annual Research Report
モバイル型嗅覚ディスプレイの開発と微小時間香り提示に対する人間の嗅覚特性の測定
Project/Area Number |
23300049
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
岡田 謙一 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (80118926)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
重野 寛 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (30306881)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 嗅覚ディスプレイ / 嗅覚測定 / 高齢者医療 / 嗅覚診断 |
Research Abstract |
本研究の目的は、人間の嗅覚特性を慶應義塾大学病院の協力の下、様々な年代の被験者に対して測定し、従来の主観的評価による簡単な嗅覚特性とは異なる精密な知覚特性を明らかにすることである。 本研究を実現するために、まずこれまでの研究手法をもとに(A)同一射出量の香りの提示手法における感覚強度差を調査する。香り提示に効果的な濃度、提示時間、提示回数、提示のタイミングを調べ、最小の射出量で効果的に香りを提示する手法を構築する。続いて、一呼吸内において、射出のタイミングをずらして香りを提示し、それに対する人間の検知能力を測定することで(B)一呼吸内での検知閾値の時間特性を調査する。検知閾値の特性曲線を描くことで、一呼吸内での最も有効な香り提示のタイミングを把握する。これらの結果を踏まえ、現在開発中の嗅覚ディスプレイを用いて(C)より精密なパルス射出に対する人間の嗅覚特性の調査を医学部の協力のもと、様々な年代の被験者に対して行っていく。最終的に、年代ごとの嗅覚特性を考慮し、実用化のために円滑に測定を行うことが可能な(D)健康診断のための嗅覚能力測定プログラムを構築し、地方の会場で老人診療を行うために、持ち運びが容易に可能な(E)モバイル型の小型嗅覚ディスプレイを開発する。 今年度はインクジェット方式の医療用嗅覚ディスプレイの試作品を制作した。計画では移動性を考慮して、電池駆動にする予定であったが、医師とのディスカッションにより性能が安定している交流電源方式とした。持ち運びを容易にするために香料射出部本体と制御部を分離して、ケーブルで接続する方式とした。残り香を減少させる事や効果的な空気の流れを実現するために、香料射出部本体の形状を変えたものを試作して比較検討した。これらの試作品のデモンストレーションを慶応大学病院の医師約20人の前で行い、好意的な反応を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
慶応大学病院の医師とのディスカッションを通じ嗅覚ディスプレイの本体部分の試作を行い、インクジェット型医療用嗅覚ディスプレイの原型となるものを世界で初めて開発した。慶応大学病院でのデモンストレーションの反響は大きく、当初考えていた耳鼻科での高齢者医療への応用だけではなく、精神科の医師から自閉症の子供に対する検査に使えるのではないかという提案と共に、共同研究に関する申し込みがあった。 また東京フォーラムで開催された慶応テクノモールにおける一般公開では、多くの人が興味を持ち今年度開発した嗅覚ディスプレイを体験し、驚きの感想を漏らしていた。さらに,これまで考えていた医療用だけではなく化粧品会社からも注目され、新しい応用の可能性が広がった。 このように医療用に関しては当初の計画通り研究が進んでおり、さらに新しい展開への可能生性も出てきた。また,マルチメディアへの応用の面から2012年5月には開発した嗅覚ディスプレイを利用した特許の申請を行った。これらの実績から、研究成果としては予想以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 嗅覚ディスプレイの改良 24年度に嗅覚ディスプレイのプロトタイプを作成し、慶応大学病院の医師に実際に試してもらい多くの指摘を受けた。その結果に基づいて、大きくは以下の2点の改良を行う。(a) 香りディスプレイの噴出口の規格化と様々な形状の噴出ノズルの開発:これまで開発した嗅覚ディスプレイの香り噴出口は極めて単純な形をしていたが、鼻孔形状やマスク型などこ れまで医療機器で使用されていた器具が使用できないかという提案があった。そこで嗅覚ディスプレイの噴出口 を規格化して,様々な形状のノズルを取り付けられるようにする。(b) 嗅覚ディスプレイの安定化:香りをより安定して提示できるようにするため、電源、ファン、空気口の形状などの改良を行う。 2. 嗅覚能力診断プログタムの開発 前年度までの結果を踏まえて、実用的な嗅覚能力測定法を医師とのディスカッションを通して決めていく。人 間ドックや学校施設での健康診断では、数十人規模で円滑に測定を行うことが要求される。このような診断に嗅 覚能力測定を取り入れるためには、一人当たりにかける時間を極限まで抑え、なおかつ児童や老年の方でも気軽 に行える簡単な測定をすることが必要となる。そのために、これまでの実験から得られた人間の嗅覚特性の中か ら最も測定に向いている特性を選び、適切な測定内容・手順を予備実験を行いながら試行錯誤し、嗅覚能力測定 プログラムを考案し開発していく。
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