Research Abstract |
脳システムが,受容した感覚刺激から重要な情報を抽出し,その情報を経験や記憶と照合し,状況に応じた行動を発現するための運動制御信号をリアルタイムで生成する神経生理機構を明らかにする目的で,昆虫の闘争行動を題材に研究を進めた.コオロギは不完全変態昆虫で,発生後の生活様式を変えないまま幼虫から成虫にまで成長するため,各個体の経験や履歴を把握しながら実験が可能である.脳における適応行動の実時間制御の働き明らかにするため,闘争行動の過程で,一方の個体が負けを認めて攻撃を諦める過程の脳の働きを調べた. 闘争行動の発現には,脳内の一酸化窒素(NO)シグナル伝達系と生体アミン類などの神経修飾物質の働きが重要である.そこで,これらの物質の作用ダイナミクスを明らかにするために,遺伝子改変コオロギの作成と脳の生理状態を自由行動個体で調べる方法の確立と改良を行った.個体行動を任意に操作するためには,コオロギサイズのロボットを使うので,ロボットシステムの改良を行った.また,自由行動個体からリアルタイムで生理機能を計測するシステムとしては,電気生理学的な方法とマイクロダイアリシス法を改良,確立した.一方,脳内神経修飾機構の機能阻害・賦活の為に,遺伝子改変コオロギを作成する法の確立を進めてきた.その結果,NO/cGMPシグナル伝達系関連遺伝子および,オクトパミン,セロトニン,ドーパミン等の生体アミン関連遺伝子の同定に成功した.また,遺伝子導入についても順調に進み,現在特定の遺伝子についての改変を行うことができる遺伝子導入法の確立を進めている.これらの研究成果により,2年目以降の研究を推進する上で非常に有効な技術開発ができた.
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Strategy for Future Research Activity |
個体間相互作用に基づいた適応的な行動の発現基盤となる神経生理機構を理解するため,闘争行動において負けを認めて攻撃から逃避(忌避)へと行動を切替える神経生理機構(内部状態の更新機構)の解明を目指す. 闘争行動中の脳の神経活動と神経修飾物質の作用ダイナミクスを明らかにするため,自由行動個体で,電気生理学実験による闘争行動中の脳活動の計測,闘争行動中に動的に変化する生体アミン類の網羅的計測を進める.また,コオロギの攻撃行動には,脳内の一酸化窒素(NO)とオクトパミン(OA)による神経修飾機構が重要な役割を担うので,分子遺伝学の方法で神経修飾機構の機能阻害・機能賦活による攻撃・忌避にかかわる脳領域を調べていく.
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