2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23300120
|
Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
喜田 聡 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (80301547)
|
Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 神経科学 / 脳・神経 / 記憶再固定化 / 記憶消去 / 記憶想起 / 記憶固定化 / 海馬 |
Research Abstract |
記憶想起後には、記憶維持に働く再固定化と、逆に記憶を減弱させる消去の二つの相反するプロセスが誘導される。これまでの解析から、再固定化及び消去誘導時には、前頭前野、扁桃体において遺伝子発現が誘導され、一方で、海馬では再固定化誘導時にのみ遺伝子発現が誘導されることを示し、これらの脳領域が再固定化及び消去において重要な役割を担うことを示唆してきた。本課題では、想起後に再固定化及び消去などの記憶フェーズの誘導が決定されるメカニズムの解明を目指す。本年度は、蛍光二重免疫染色法を用いて、再固定化と消去の性状解析をさらに進展させた。Extracellular signal-regulated kinase (Erk) などの活性化マーカーとなるリン酸化を検出することで、海馬、扁桃体、前頭前野の脳領域において再固定化及び消去を制御し、生化学的に差異を示すニューロン集団の同定を進めた。その結果、前頭前野では、再固定化フェーズにおいてERK活性化は記憶想起直後に一過的に観察されることが明らかとなった。一方、消去フェーズでは、再固定化フェーズと同様に、記憶想起直後にERKは活性化され、この活性は一度低下するものの、その後再び、活性化が観察されることが明らかとなった。以上のように、再固定化と消去では、ERKの活性化に共通性と特異性が観察され、再固定化と消去時の脳内の分子制御機構には特徴的な差異が観察されることが明らかとなった。特に、消去時にはERK活性化に二つのピークが観察され、このようなERKの活性制御が消去進行の鍵となることが強く示唆された。さらに、ERK阻害剤を用いた解析から、観察されたERK活性化が再固定化及び消去の進行にそれぞれ不可欠であることが行動レベルでも明らかにされた。以上のように、ERKの活性制御が再固定化と消去を区別する、すなわち、フェーズ移行の鍵を握ることが強く示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フェーズ移行を制御する分子群及びニューロン群の同定が予定通りに進んでいるため。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度までの結果を踏まえて、ERK活性化を指標にして、プロテオソーム依存的タンパク質分解、カルシニューリン、LVGCC、NMDA型受容体、MAPキナーゼの階層性を解析し、記憶フェーズ移行を担う情報伝達経路を解明する。また、記憶再固定化と消去のフェーズ移行に前頭前野を中心とした脳領域の重要性が明らかとなってきたため、遺伝子発現を指標にして、これら領野間の相互作用を明らかにする。また、順行性及び逆行性トレーサーを用いることで、領野間をまたがる記憶制御ネットワークを同定する。特に、社会的認知記憶及び新規物体認知記憶課題なども用いて、記憶制御ニューロンの同定を進め、記憶制御に関わるニューロンの生化学的特性を明らかにする。さらに、記憶制御に関わると考えられる新規の脳領域の同定も進みつつあるため、これらの領域を標的として、記憶制御ニューロンの同定と性状解析を進める。
|