2012 Fiscal Year Annual Research Report
BDNFとproBDNFの陰陽効果による長期シナプス可塑性
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23300132
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小倉 明彦 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (30260631)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
冨永 恵子(吉野恵子) 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (60256196)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | シナプス可塑性 / シナプス新生 / シナプス廃止 / BDNF / proBDNF / 長期記憶 / 恐怖学習 / 遺伝子改変マウス |
Research Abstract |
本研究課題は、BDNF(脳由来神経栄養因子)とその前駆体proBDNFという姉妹分子が、長期記憶の細胞基盤であるシナプスの新生・廃止にそれぞれ密接に関与している、という私たちの仮説を、私たち自身が樹立した実験系を用いて実証することを目的とする。 本年度は、昨年度の成果を定量的に裏付けるとともに、新たな展開をえた。 第一の成果は、交差活性化である。BDNFはTrkB分子を高親和性受容体、p75分子を低親和性受容体として信号を伝達する。逆にproBDNFは、p75と高親和性、TrkBと低親和性に結合する。そこで、BDNFを介すると想定されるシナプス新生誘発刺激時にTrkBを遮蔽し、またproBDNFを介すると想定されるシナプス廃止誘発刺激時にp75を遮蔽しておくと、正反対の効果が生じると期待される。それを実行すると、その通りになった。このとき確かに逆の受容体が活性化されていることを、TrkB分子のリン酸化を定量することで裏づけた。 第二の成果は、Tg動物で上記仮説が検証されたことである。(独)産業技術総合研究所で作成されたproBDNFをBDNFに変換できないTgマウスから作成した脳切片は、シナプス新生誘発刺激を与えても新生が起きないと予想されるが、実際その通りだった。一方、廃止刺激を与えた場合には廃止は正常に進むと予想したが、実際は何も起きなかった。この結果は仮説の否定ではなく、動物内ですでに廃止が起きており、それ以上の廃止を起こせないオクルージョン状態にあったと解釈できる。 第三の成果は、これまで培養系でえてきた知見を動物に適用し、培養下のシナプス新生現象が、動物個体の長期記憶と関連している可能性に支持がえられたことである。マウス脳に薬物投与用のカニューレを留置し、文脈的恐怖学習を施した後、培養下のシナプス新生を阻害する薬物を投与したところ、期待通り学習が減弱した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
動物実験は最終年度である平成25年度に行う計画にしていたが、研究の進捗により早期に着手し、しかも期待通りの結果をえた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究そのものは大変順調に進展している。しかし。研究の実質的展開を急ぐあまり、論文執筆・発表が遅れていることには、反省を要する。 私たちの仮説は、学界の主流的見解である「LTP(高頻度活動後のシナプス伝達増強で主として受容体の発現増加による現象)が長期記憶の細胞基盤である」とする通説に対して異を唱える形になるため、批判が強い。また、心理学・行動学の研究者からは「培養系での実験結果を行動と直結して議論することはできない」という批判を受ける。 両側からの批判に答えるため、論文発表には非常に慎重かつ周到なデータの蓄積が必要である。これらの難関をクリアして学界の認知を早期にえたい。
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