2012 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト加齢性難聴モデルマウスの遺伝的発症要因の網羅的スクリーニングとヒトへの応用
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23300160
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
吉川 欣亮 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, プロジェクトリーダー (20280787)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
和田 健太 東京農業大学, 生物産業学部, 助教 (20508113)
野口 佳裕 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 講師 (50282752)
設楽 浩志 公益財団法人東京都医学総合研究所, 基盤技術研究センター, 基盤技術研究職員 (90321885)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 遺伝学 / 遺伝子 / ゲノム / 加齢性難聴 / モデルマウス / コンソミック系統 |
Research Abstract |
本研究はヒトの加齢性難聴(AHL)モデルマウスを用いた遺伝学的解析、網羅的発現解析および表現型解析によって責任遺伝子を明らかにし、その本体となる標的分子を捕捉した後、その情報を用いてヒトの加齢性・老人性難聴発症に関与する遺伝的要因の全貌を解明することを目的として、第一に、これまでの実験結果に基づき、本年度はNOD/Shi(NOD)マウスのAHL発症の感受性遺伝子およびMSM/Ms(MSM)マウスのAHL発症の抵抗性遺伝子の同定を試みた。昨年度報告したようにNODマウスのAHL感受性遺伝子座は、第5番染色体上に複数同定された。しかしながら、NODのAHL感受性遺伝子座として知られているahl2領域よりもNODのAHLと強い関連を示す遺伝子座がセントロメア領域に同定された。そこでこの領域に存在するNOD特異的遺伝子多型を抽出した結果、Adam22遺伝子にミスセンス多型を含む多くの多型が検出された。そこでAdam22の抗体を用いて、発現解析を実施した結果、Adam22は蝸牛神経節細胞に局在し、NODにおいてはその発現が減少することが明らかとなった。一方、C57BL/6J(B6)-MSMコンソミック系統を基盤として同定した第17番染色体の難聴抵抗性遺伝子座ahl3の責任遺伝子を抽出するため、発現解析に基づき候補遺伝子を抽出した結果、内耳有毛細胞の感覚毛に特異的に局在する2つの遺伝子、Lrrc30およびPtprmが同定された。両遺伝子は、B6-MSM間でミスセンス多型が認められることから、ahl3の有力な候補遺伝子として、ノックアウトマウスの作製およびBACトランスジェネシスによるレスキュー実験を開始した。加えて、B6-MSMコンソミック系統を基盤として新規のAHL感受性遺伝子の同定も試みており、特に、昨年度報告した12番染色体に着目し、サブコンソミックを樹立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
加齢性難聴(AHL)を対象とした本研究は、立案当初から時間のかかる研究であることを予想していたが、2年間の研究で2つのAHL関連遺伝子座について候補遺伝子が同定されたことは予想以上の進展である。特にahl3遺伝子座のヒトシンテニー領域には、ヒトの難聴関連遺伝子がマップされていることから、Lrrc30およびPtprmはその有力な候補となった。一方、NODのAHL感受性遺伝子として同定したAdam22は蝸牛神経節細胞に特異的に局在し、有力な候補遺伝子であると考えられる。しかし、NODは加齢に伴う内耳有毛細胞の感覚毛の崩壊を示すことから、他の遺伝子がNODのAHL発症に関与する可能性も示された。その感受性遺伝子は本研究で同定したQTLの中に存在する可能性が強く示唆されるが、本研究においてQTL解析に用いた個体数からはその領域を限定するのは困難であった。 また、B6-MSMコンソミック系統を基盤した新規のAHL感受性遺伝子の同定については思うように研究が進まなかった。特に、AHL感受性遺伝子座を同定するためには、コンソミック系統からサブコンソミックを作製し、長期的・継続的な聴力測定による表現型解析を多頭数で行う必要があり、測定に要する時間、マウスの飼育スペースなど物理的に解析が困難であったことから、数種のコンソミック系統については解析を中断せざるをえなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果および反省から、基本方針は継続するものの、本年度は以下の3つの解析を中心に研究を展開する。 1.NODマウスの加齢性難聴(AHL)感受性候補遺伝子Adam22の解析:Adam22をAHL感受性遺伝子として実証するため、トランスジェネシスによるレスキュー実験を行う。Adam22のゲノム領域は300 Kbを超えるため、BACを使用できないことから蝸牛神経節細胞に発現するMyo7aのプロモーターをAdam22のcDNAにつないだコンストラクトを作製しトランスジェネシスに用いる。また、Adam22はノックアウト(KO)マウスが存在することから、そのKOマウスを入手し、ノックアウトホモ個体およびNODとKOマウスを交配したF1個体の聴覚の表現型解析を実施する。 2.ahl3候補遺伝子Lrrc30およびPtprmの解析:Lrrc30およびPtprmのahl3の責任遺伝子であることを実証するため、トランスジェネシスによるレスキュー実験を行う。Lrrc30はBACを、巨大遺伝子であるPtprmは1に記したMyo7aプロモーターを用いたコンストラクトを外来遺伝子として用いる。また、両遺伝子のノックアウトマウスを作製し、聴覚の表現型解析を実施する。 3.第12番染色体の新規AHL感受性遺伝子の同定:第12番コンソミック系統から作製したサブコンソミック系統群の聴力測定および遺伝子型判定により、候補領域を限定する。
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