2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23300245
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
小林 正義 信州大学, 医学部, 教授 (80234847)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 自動車運転 / シミュレーター / 手掌部発汗 / 脳波 / 視線動作 |
Research Abstract |
新たに構築した自動車運転認知行動評価装置と映像を用いて実験を行い以下の研究成果を得た. 1.模擬運転による手掌部発汗反応は実車運転時の反応を反映する: 健常成人7名を対象に実車運転と模擬運転の手掌部発汗反応の相関を調べた.実車運転では発汗量が多い傾向がみられ,危険予測場面では両反応は時相のズレをもって高い相関(r=0.8-0.9)を示した.実車運転・模擬運転ともに交差点では直進に比べて反応が多く,危険認知の差によると解された.模擬運転時の発汗反応は実車運転時の反応を反映し,危険認知・予測機能の評価に有効と思われた. 2.模擬運転映像の危険な場面では脳波変動(β波の増加)がみられる: 健常成人3名に運転映像を提示し脳波(Fz,Cz,Pz)を計測した.ボール飛び出し,人飛び出し,一時停止,対向車進入等シナリオの前後でα波とβ波の割合を比較すると, 全例で一時停止を除き正中前頭部Fzにβ波の増加を認めた.ボール飛び出し場面では,脳波変動に続いてSPRが現れ,脳内活動に対応する皮膚交感神経活動の興奮が確認された. 3.視覚的認知によってデバイス操作・皮膚電位反射・手掌部発汗反応が生じる: 健常成人18名にアイマークレコーダを装着して模擬運転を行わせた.ボール飛び出し場面では,ボールへの視線移動,デバイス操作,SPR,手掌部発汗の順に反応が生じ,潜時(sec.)は視線動作0.46,ハンドル0.94,アクセル1.53,ブレーキ1.75,SPR 2.36,手掌部発汗3.44であった.小路走行や停止ではデバイス操作とSPR・発汗反応のタイミングは個人差があり,応答の順序も一律でなかった.発汗量(mg/min)は,ボール飛び出し0.35,小路走行0.25,一時停止0.22であった(p<0.000).視線停留点の少ない群は,多い群より発汗量が多く(p<0.01),注意機能の強さが影響したと思われた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は広角映像の作成と模擬運転装置(シミュレータ)の再構築を行った.広角映像の作成過程では,視野角が広がると映像の左右方向に歪みが生じ,動画再生時には実際より速度が増して見え,被験者の眼精疲労(シミュレータ酔い)を誘発しやすいことが判明した.このため特に高齢者に対しては,視野角120°程度のワイド映像の使用が適していると思われた.また,新たに作成した映像では進行方向を示す方向指示器(ウインカー)を画面下に合成し点滅させることで,より運転状況に近い映像となった.再構築した模擬運転装置については,ハンドルの可動域が最大360°から720°に増加した.また操作時の反力(抵抗)はハンドルが1Nから最大25.2Nへ,ブレーキは12Nから最大24Nへ,アクセルは9Nから最大14Nへと改善し,より実車に近い操作感を得ることができた. 平成24年度は再構築した模擬運転装置を使って模擬運転時と実車運転時の生体情報反応の比較検討を行った.その結果,模擬運転による手掌部発汗反応は実車運転時より反応量は少ないものの,高い相互相関を示すことが分かった.また,アイマークレコーダーを使った視線動作の解析により,危険な対象物を視覚的に捉えた後に動作反応と生体反応(SPR,手掌部発汗)が生ずることを確認した.そして危険認知に関わる脳内活動を脳波から検討した結果,危険回避する場面や危険予測場面で,正中前頭部Fzにおけるβ波成分の増加を確認することができた.なお,動画再生時の脳波から事象関連電位P300成分と準備電位(MRCP)を同定することはアーチファクトによる影響から技術的に困難であった.このため,平成25年度の研究では脳内活動の評価に大脳皮質の血流変化を相対的に計測する近赤外分光法(NIRS)を追加導入し,再度脳内活動の変化を検証するための実験を計画することとした.
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Strategy for Future Research Activity |
脳波計を用いて「危険認知」の根拠となる脳内活動の評価を行い,映像に含まれる危険な場面で生じる脳波変動(β波成分の増加)を確認することができた.平成25年度の研究では,更なる根拠データの追加収集を目的に,現有する簡易型頭部近赤外光計測装置(HOT121B)を用いて模擬運転操作時の前頭前野の血流変化を測定し,脳血流の変化とSPR・手掌部発汗反応・動作反応との対応関係を明らかにするための実験を行う.運転映像における危険認知場面と一致するタイミングで脳血流の変化が生じ,これに続く皮膚交感神経活動の興奮(手掌部発汗・SPR等)が測定・同定できれば,自動車運転に関連する認知と行動を評価する本装置の信頼性・妥当性がより一層高まると考えられる. また,映像を使った模擬運転と,実際の自動車運転によって生じるドライバーの視線動作,脳血流変化,皮膚電位反射,手掌部発汗反応を測定し,両者の異同を明らかにすることにより,開発した「自動車運転認知行動評価装置」の実用化に向けて,装置特性(利点と限界)をより詳細に評価することができると考える.
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Research Products
(9 results)