2011 Fiscal Year Annual Research Report
消費の多様性が環境負荷にもたらす影響と持続可能なライフスタイルに関する考察
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23310033
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鷲津 明由 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (60222874)
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Keywords | 持続可能な消費 / カーボンフットプリント / ライフスタイル / 産業連関分析 |
Research Abstract |
消費者が持続可能なライフスタイルに自発的に取り組むためには,消費生活に伴う環境負荷情報の提供が重要である。 消費者に商品の環境情報を開示する手段としてのカーボンフットプリント制度(CFP)は,わが国でも取り組みが進んでいるものの,まだ十分の浸透を見ていない。しかし,消費者の日常行動を環境配慮的にするための情報手段として,CFPを見過ごすことはできない。そこで今後のCFP普及を考えるうえで,消費者にとっても生産者にとっても使いやすいCFP指標とはどのようなものであるかを考察することが23年度の研究課題の1つであった。そこで,外食産業より提供された原価計算データに基づき,可能な限りCFP算定ルールに従いつつも,産業連関データを有効に活用することで追加的調査を最低限にしたCFP指標の算定方法を提示した。その結果,外食の1食あたりLC-CO2は内食に比べて高めであるが,その要因は両者の誘発CO2排出構造の違いにあると考えられた。そこでそれらの違いをよく反映するように設計されたCO2の見える化が消費者向けの環境情報として有用であると考えられた。 またCFP情報は,消費者と商品の最大の接点である販売過程において,構築することが特に重要と考えられる。そこで本研究では,食品スーパーマーケットの詳細かつ多様な業務データを活用して販売過程のCO2排出量の算出をおこなった。その結果,同じ商品でも販売される店舗特性に応じて金額1万円あたりのCO2排出量に差が生じていることを確認した。販売過程のCO2排出を大きく左右するのは,店舗における光熱使用量と,顧客の自動車利用の大きさであることから,それらを中心とした情報開示の仕方が有益と考えられた。あわせて,企業の日常の業務データを再構築することで,そのような指標の計算が可能であることを示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
個々の研究成果により,各ケースにとって消費者に特に伝えるべき情報の「ホットスポット」がどこにあるかが確認されたが,それと同時に,本研究の成果は,CO2見える化指標作成の方法論上の課題解決のためにも示唆をもたらす。本研究では,協力を得た企業が日常業務で収集している複数のデータに基づいて,見える化指標の算定を行っている。それら業務データはCO2排出算定を意識して収集されたものではないが,本研究ではそれらデータを再構築することでCO2の見える化指標の作成が可能であることを示した。企業が日常収集している一般的な業務データを最大限に活用し,もっとも効率的で有効なCO2削減策を見つけるための,製品・サービスの見える化指標を普及させることはのぞましいことと考えられる。 経産省による2009~2011年度には,カーボンフットプリント制度試行事業は2012年4月より,CFPコミュニケーションプログラムとして民間機関(社団法人産業環境管理協会(JEMAI))に継承されて新たな制度の運用が開始されたが,その下で,事業者・消費者間の協力とコミュニケーションと協力を活性化することにより,CFPのさらなる普及を図ることが目指されている。その一環として,CFPに関連する様々な課題解決の支援を行っているCFPフォーラムにおいて,新たに「参加しやすい普及型のCFP」の在り方研究会」が設置された。同研究会は,可能な限りCFPの算定ルールに準拠しながらも,企業の業務データ(仕様書,原価計算データ,エネルギー管理データ等)と過去に蓄積されてきた詳細な原単位データベース等を活用することにより,新たなデータ収集にかかるコストを最低限にしつつ,製品のCO2見える化指標を作成する方法を実証的に探ろうとする試みである。この試みは本研究成果に基づいて,本研究代表者による提案で実現したものである。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度の研究は,消費者の持続可能なライフスタイルは,強制やがまんによってはもたらされ得ないと考え,自発的に少しずつ消費者のライフスタイルを持続可能性に結び付けていくにはどうしたらよいのか,を考えるために遂行されていた。つまりそれを実現するための手段として,消費者への情報開示に着目し,情報の作り手,使い手の双方にとって実現化させやすい環境情報について考察した。ただし,本研究の開始直前に発生した東日本大震災は,このような研究を時代遅れのものとした。未曾有の災害の後,消費者は強制やがまんがあったとしても,持続可能なばかりでなくよりresilientな社会構築を志向するようになっている。割高な再生可能エネルギーの導入や,ピークカットへの協力のためにピーク時の電力使用にかかわる不便性への忍耐などを容認するようになった。 このような中で,本研究でも,震災前に建てられた当初の研究計画を大幅に見直すこととし,再生可能エネルギーとそれを有効に利用するためのスマートグリッドシステムに着目し,それらへの消費者の受容可能性を探る中で,新たな視点から持続可能かつresilientなライフスタイルについて考察することとした。 そしてそのような考察を実証的に可能にするための手法として,まず,「再生可能エネルギーとスマートグリッド」分析用産業連関表を既存の産業連関表を拡張して作成することが不可欠であった。そこで,24年度はそのような産業連関表の推計作業を展開するとともに,再生可能エネルギーとスマートグリッドに対する消費者の受容可能性を,アンケート調査等によって確認した。両作業結果は組み合わされて,新たに変化した消費者のライフスタイルについての考察へとつなげられる。
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Research Products
(6 results)