2012 Fiscal Year Annual Research Report
消費の多様性が環境負荷にもたらす影響と持続可能なライフスタイルに関する考察
Project/Area Number |
23310033
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鷲津 明由 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (60222874)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 産業連関分析 / 持続可能なライフスタイル / 再生可能エネルギー / スマートグリッド / 次世代モビリティ |
Research Abstract |
東日本大震災ののち,「持続可能性」と同時に災害に対して「resilient」なライフスタイルを勘案することが重要視されるようになった。そこで本研究では,当初の研究計画を若干変更し,再生可能エネルギーとスマートグリッド活用型のライフスタイルについて考察を行うこととした。 そのために,再生可能エネルギーとスマートグリッド部門を内生化した拡張産業連関表の構築を目指し,研究者・技術者への詳細なヒアリングのもとに各アクティビティを作成した。その上で,産業連関の静学的オープンモデルを用いて,再生可能エネルギー発電施設建設に必要な資材・サービス投入に伴う誘発効果について,金額,雇用,エネルギー,CO2の波及を多面的に検討した。今後は,発電所の設備稼働年数,周辺産業への効果,発電以外の目的(周波数調整力としての利用など),発電所運転時のコストなどをも多面的に評価しつつ,最適な再生可能エネルギーの組み合わせについて考察していく必要があるが,上記の検討結果から,今後の主要な分析方針をまとめることができた。 一方,再生可能エネルギーの実用にはスマートグリッド(本研究では太陽光,風力のように出力変動の大きい再生可能エネルギーをできるだけ有効に活用する手段としてスマートグリッドをとらえている)の整備が不可欠である。そして今年度は,そのスマートグリッドの重要な構成要素の1つであるEVに着目し,EVの将来普及の可能性(現在どんなライフスタイルにある人が将来EVのユーザーとなり得るか)を,アンケート調査の実施によって分析した。その結果,高齢者層に移動のための新しい手段としてのEVへの期待が大きい,30-40代層ではこれまでにないモバイル社会構築手段としてのEVへの期待が大きい,現状の自動車の使い方に問題意識を持つ消費者を中心にEVへの期待が大きいなどの結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は「持続可能なライフスタイル」を考察することにあったが,東日本大震災震災以後の社会情勢に対応して,「持続可能性」を単なる「低炭素化」としてとらえるのではなく,それに加え,災害に対する「resiliency」への配慮も視野に含めることとした。そこで,本研究では当初の計画を変更し,resilientでかつ低炭素的な再生可能エネルギー活用社会の構築と,そのような社会に必要な消費者のライフスタイルとはどのようなものかについて考察することとした。 本研究はその手法を産業連関分析においていることから,上記考察に先だって先ず,再生可能エネルギーとスマートグリッド部門(再生可能エネルギーの有効活用には不可欠な次世代送配電ネットワーク)を明示した,拡張された産業連関表の開発と作成が不可欠であった。まず,既存の産業連関表に再生可能エネルギー部門,スマートグリッド部門を新設するための手法を検討した上,各方面の文献検索,工学系研究者・技術者への詳細なヒアリング等を通じて情報収集を行い,産業連関表に新規に設置すべき各部門のアクティビティの作成を行った。幸い,各方面から研究の趣旨に賛同を得ることができた結果,情報収集は順調に進み,必要なアクティビティ作成作業はほぼ完了した。また,それら結果を産業連関のオープンモデルで分析することにより,初期的観測事実のまとめと問題点の整理を行うことができた。 一方,再生可能エネルギーを活用するためのスマートグリッドシステムに関しては,その重要な構成要素である電気自動車(EV),家庭用エネルギーマネジメントシステム(HEMS)の,消費者による受容可能性が重要な論点になる。本年度は先ずEVについて,消費者の受容可能性についてアンケート調査を行い,同様に,初期的観測事実のまとめと問題点の整理を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は先ず,これまでに収集したアクティビティ情報をまとめ,再生可能エネルギー及びスマートグリッド分析用の拡張された産業連関表の完成を目指す。これまでに,必要な情報のほぼ90%程度が収集されたが,浮体式洋上風力発電のような実現までに少し時間のありそうな次世代発電システムについては情報が未入手である。また研究の過程で,発電施設の投入要素である太陽電池や風力発電設備の主要部品(ブレード等)についてもアクティビティの新設が必要と考えられた。そのほか,未利用木質バイオマス,農業用水の従属発電については,地域的な電機の有効活用(マイクログリッド)の構築が重要と考えられたが,これについての優良事例の調査とその産業連関表における表章形式の検討などの課題も残る。今年度は,拡張された産業連関表のさらなる精度の向上のための努力をしていく予定である。 一方,再生可能エネルギーを活用するためのスマートグリッドシステムに関しては,EVの消費者の受容可能性についてのアンケート調査結果の分析をさらに深め,論文作成を目指すと共に,その分析ノウハウをふまえて,HEMSに関しても消費者の受容可能性についてのアンケート調査実施の準備を進め,年度後半での調査実施を目指す。HEMSに関する工学系研究者・技術者や,HEMSの社会実証を行っている自治体等へのヒアリングを通じてアンケート調査の内容を精査していく予定である。 最終的に,完成した拡張産業連関表を用い,アンケート調査から得られた知見に基づいたシミュレーション分析を展開したい。すなわち,アンケート調査結果に基づいて,将来的な消費者のライフスタイルについて想定をおき,そのライフスタイルのもとで実現するであろう最終需要構成がもたらす産業連関効果を,拡張された産業連関表を用いて導出する。
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