2011 Fiscal Year Annual Research Report
無機砒素毒性発現における性差の機序と毒性学的意義の解明
Project/Area Number |
23310045
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡辺 知保 東京大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (70220902)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
稲岡 司 佐賀大学, 農学部, 教授 (60176386)
佐藤 雅彦 愛知学院大学, 薬学部, 教授 (20256390)
清水 華 東京大学, 大学院・医学系研究科, 助教 (80401032)
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Keywords | 無機砒素 / メチル化代謝 / 遺伝子多型 / 酸化ストレス / ヒ素汚染地域 |
Research Abstract |
1.バングラデシュ南西部のヒ素汚染地域調査において得られた生体試料の解析を実施した.尿中8-OHdGならびに15-F2t-isoprostaneを指標として酸化ストレスについて検討したところ,これらの酸化ストレスマーカーとヒ素の曝露レベルとの間には予想された相関を認めた。同じレベルのヒ素曝露では,女性において酸化ストレスマーカーが有意に高値を示した.皮膚症状については,男性においてより症状が重篤となることが知られており,性差という点で今回の結果とは逆であった.一方で,メチル化代謝については既存の報告と同様,女性でジメチル化代謝物の割合が有意に高かったことから,メチル化代謝・酸化ストレス・毒性の関連は,本研究で当初に予想したような一元的な関係ではないことが示唆された. また,ヒ素のメチル化代謝ならびに酸化ストレスにかかわる遺伝子の中で,ヒ素毒性への影響が報告されている20余りのSNPについて,酸化ストレスおよびメチル化代謝との関連を検討したところ,後者のSNPの中に,その効果が性に依存するものが存在することを示唆する結果を得た. 2.過去の報告では,皮膚症状以外のエンドポイントにおいては,性差が逆転するものがある.ヒ素毒性のエンドポイントとして,性ホルモンの影響を強く受け始める前の幼少期における免疫系の発達を選び,バングラデシュ中央部において新たに前向き調査を開始した. 3.無機ヒ素の毒性発現機構を知る目的で,ラット腎臓由来の細胞株を用いて,ユビキチン関連遺伝子の発現およびp53の細胞内蓄積とアポトーシス誘導を検討したところ、亜ヒ酸による細胞毒性の誘発は,同じ金属であるカドミウムと毒性発現の経路を少なくとも一部共有していることが判明した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体としては,当初の予想とは異なるが性差について新たな所見を得る事ができた。性依存性のSNPの効果については,さらなる検討が必要であるが,確認されれば,有害物への感受性を考える上では重要な観察と考える.また,あらたなエンドポイントについて検討するための前向き調査も順調に立ち上がりつつある.一方で,動物実験については,設備の故障などもありやや立ち上げが遅れた.
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Strategy for Future Research Activity |
実績概要に記した通り,酸化ストレスの性差は,皮膚症状について一貫して報告されていた性差とはちょうど逆の関係にあった.性差を考える上で最も重要な因子となるものが性ホルモンであるが,その影響を受けにくいエンドポイントとして乳児期の免疫機能の発達を対象とした調査を開始した.ここでもメチル化代謝を検討することによって,性差の機構にヒントが得られると期待している.実験的アプローチについては,酸化ストレスとエンドポイントとの関連パターンが一意ではない可能性を考慮しつつ,実験デザインを改良する.
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