2012 Fiscal Year Annual Research Report
無機砒素毒性発現における性差の機序と毒性学的意義の解明
Project/Area Number |
23310045
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡辺 知保 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70220902)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 雅彦 愛知学院大学, 薬学部, 教授 (20256390)
稲岡 司 佐賀大学, 農学部, 教授 (60176386)
古澤 華(清水華) 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80401032)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 無機砒素 / メチル化代謝 / 遺伝子多型 / 酸化ストレス / 砒素汚染地域 |
Research Abstract |
1.フィールド調査:バングラデシュ中央部における砒素汚染地域において3つの中規模都市の病院を対象として母児200組余りの出生コホートを設定し,尿・血液を採取した.尿中砒素の分析により曝露程度を確認するとともに,母体および臍帯血中のIgG濃度を測定して,砒素曝露がこれに影響するか否かを検討した.対象集団は中等度の砒素曝露があるが,曝露の程度には大きな個人差が認められる集団であった.砒素曝露によって母体血中のIgG濃度は有意に高くなる一方で,臍帯血中のIgG濃度には全く影響がなかった.この結果として母体血中と臍帯血中のIgG濃度には通常期待されるような相関が認められなかった.以上より,砒素曝露が何らかの機序によってIgG濃度を上げる一方で,胎盤を通じての移行にも影響する可能性が示唆された.なお,尿中の砒素代謝物の排泄パターンについては現在,測定が進行中である. 2.動物を用いた実験による砒素感受性の検討:感受性差の基礎となる毒性発現について主として検討を行った.腎近位尿細管細胞および脳血管内皮細胞を用いて、亜砒酸がp53の細胞内タンパク質レベル並びにUbe2d ファミリーの遺伝子発現に与える影響を検討したところ,いずれの細胞種においても,p53タンパク質が増加・蓄積する一方で,UBE2D family遺伝子の発現低下は示されなかった.以上の結果から,無機砒素は細胞特異的な経路を介してp53タンパク質レベルを増加させる可能性が考えられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フィールド調査については,予定通りに調査ならびに生体試料の採取と分析を実施することができ,IgGにおよぼす影響についての新たな知見を得る事ができた.これまで,砒素曝露がIgGに及ぼす影響については,重篤な曝露によって砒素中毒症状を呈するようになった患者と健常者の比較があったのみで,IgGへの影響が砒素に由来するものなのか,進行した中毒の病態に由来するのかが明確でなかった.本研究では,特に症状を呈していない対象者で,中等度の曝露であってもIgGに影響が見られることを明らかにした意義は大きいと考えている.このようなIgG の増加という現象が臍帯血には反映されない点について,これが胎児側の能動的なメカニズムによる調整であるのか,あるいは胎盤機能の修飾によるものであるのかは現状では不明で,今後の検討が必要である.現地では,出生後のフォローアップも続いており,実験室におけるメチル化代謝の検討ともあわせて,新生児期を含む免疫機能の発達についてさらなる知見が得られることが期待される.なお,検討したパラメータについて男児・女児の比較を行なったが,性差は全く検出されなかった.これまでも成人期に見られる性差が,幼弱期には認められない例が多く,性成熟ならびに性ホルモンの関与が示唆されて来たが,砒素曝露による免疫機能への影響についても,同様な可能性が示唆されよう. 実験的知見においては,p53の毒性発現への関与を示唆する知見を細胞系によって示すことができた.次年度に予定されている性差に関する実験において,評価対象とできるパラメータが得られたことになる.メチル化代謝についての in vivo での検討を最終年度に実施する予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
1,フィールドに関しては,当初の予定通り,ネパール低地の砒素汚染地域において調査を実施する予定である.ネパールにおいては,成人男女を中心とした性差の検討を行なう.既に過去調査対象とした集落と連絡をとり,再度の調査が適切であるか否かを検討中. バングラデシュについては平成24年度終盤より現地の治安状況が不安定になっている.フォローアップ調査の実施されている農村部には今のところそれほど大きな問題は行なっていないが,今年度中盤までは再訪は困難であることが予想される.したがって,あらたに採取した試料は空輸するとともに,調査情報についても現地から電子的に送信するため,進行が遅くなることは予想される. 2.動物実験については,in vivo における性差についての検討が中心となる予定である.特に前年度p53への影響が認められたことから,p53の代謝その他などで特徴的な系を探して実験に組み入れる,あるいは,検討対象に p53の発現を加えるなどを予定している.
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