2012 Fiscal Year Annual Research Report
長時間トラップ型気相移動度測定法の開発とナノ物質が関与する化学反応の追跡
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23310066
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
菅井 俊樹 東邦大学, 理学部, 准教授 (50262845)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | イオントラップ / 気相移動度 / 長時間構造変化 |
Research Abstract |
本申請計画はナノ物質などの荷電粒子を長時間トラップしながら気相移動度測定を行うことで、触媒機能や構造変化、生成過程など従来困難であった測定を可能にするものである。今年度は高度制御RF-DC電源を分子科学研究所装置開発室と共同で開発した。本測定システムには、1kV程度の泳動用電圧を印加しながら、トラップ用RFと泳動用DC電圧の自由度の高い高精度・高速制御が必要不可欠である。この制御をマイクロコントローラーに実行させ、そのコントローラーに制御手順を記憶させることで行う。この電源開発の最難関点は人間が操作するPCとマイクロコントローラー間の絶縁型通信と高精度の電源制御であり、これが今年度実現できた。現在この電源を活用し測定を行っている。 気相移動度測定では荷電粒子が静電場下でバッファーガスと衝突しながら移動していく速度を測定することで、荷電粒子とバッファーガスとの衝突断面積を算出し、荷電粒子の構造が推定できる。しかし基本的に得られるデータが、構造を平均化した衝突断面積のため、移動度データから最終的には構造推定することは困難である。今年度はこの解析を行うプログラムを奈良女子大と共同で開発し、カビ代謝分子に応用した。測定精度5%程度で移動度データを再現することが出来、分子認識能を向上させることが出来た。成果は国際質量分析学会で発表し、論文準備中である。このようにナノ物質測定のめどがついたので、評価用熱分析測定システムおよび分光システムを導入した。 今年度このようにプロジェクトの基盤要素が確立したが、さらに東邦大学に高分解能透過型電子顕微鏡が導入され、現在システムの立ち上げ中である。来年度以降は移動度システムの基本性能を向上させるとともに、この顕微鏡システムに接続することも並行して行う。質量分析だけでは解明できない、詳細構造が得られ、当初予定していた以上の成果が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
測定システムの基盤となる高度制御RF-DC電源が分子科学研究所装置開発室の協力を得て完成した。この電源はプリント基板化とモジュール化がされており、大量生産が容易である。そしてマイクロコントローラーを活用しているため、いかなる移動度測定パターンにも対応できる汎用性と生産性に優れているものである。現在1台分しか完成していないが、複製することで直ちにより性能が高い移動度測定システムを完成させることが出来るため、最初の一台の成功が大変大きな意味を持つ。そして本プロジェクトでも活用される移動度解析プログラムが他グループの結果に適用され大きな成果を生みつつある。このように汎用性と解析性能がすでに実証され、これまで困難であった移動度データから最終的な目的であるナノ物質の構造推定にめどが立った。 さらに当初予定されていなかった高分解能透過型電子顕微鏡が導入され、本プロジェクトに容易に組み込める体制になった。前述の通り、どのような解析プログラムを用いようとも移動度データからナノ物質構造を導き出すことは容易ではない。現存するナノ物質構造測定に最大の力を持つこの顕微鏡を活用することで、これまで出来なかった移動度データとナノ物質構造の完全な対応付けが実現できる可能性が高まった。 このように、当初の計画通り進んでいることと、当初の計画以上の進展が見込めそうなため、このような評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は当初計画にあるように大型高精度移動度・質量分析システムをブラッシュアップし、基本性能を向上させる必要がある。まだ1ユニットしか完成していない電源を量産することで、当初の計画通りの高精度・高分解能化が実現できる。また解析プログラムを奈良女子大のデータと本プロジェクトのデータ両方に適用することで、これまでに無い精度で移動度データと物質の構造の対応がつけられるはずである。このためには、データと共にプログラムにより高精度のイオン分子相互作用を組み入れることと、多数のデータを活用した統計的・帰納的解析機構を組み入れる必要がある。また、今年度から活用できる透過型電子顕微鏡との接続が本プロジェクトのさらなる発展性の鍵となる。電子顕微鏡へ移動度分離したナノ物質を導入するやり方には、大きく分けて二通りある。顕微鏡の試料グリッドに移動度分離試料を導入し、その試料グリッドを電子顕微鏡に搬送するやり方と、電子顕微鏡に移動度機構を直結するやり方である。後者のほうが装置機構が複雑化するため、まずグリッド搬送方式を開発する。当初は大気中での搬送を行い、さらに真空装置内に保持したまま搬送する機構を開発する。これらの運用でデータや問題点の割り出しを行った後、移動度分離ユニットを電子顕微鏡に統合する。大気中で安定なナノ物質は炭素系・貴金属系と少なく、本プロジェクトの汎用化と主要な目的である触媒機構の解明のためには、是非とも大気に全く阻害されない機構が必要であると思われる。
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Research Products
(13 results)