2013 Fiscal Year Annual Research Report
絶滅危惧種シマフクロウの遺伝的多様性評価と遺伝子資源保存の基盤形成
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23310164
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
増田 隆一 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80192748)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西田 千鶴子 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助手 (50106580)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 保全生物学 / 絶滅危惧種 / シマフクロウ / 遺伝的多様性 / 遺伝的浮動 / マイクロサテライト / ミトコンドリアDNA / 集団遺伝学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、北海道における絶滅危惧種シマフクロウの保全をめざして地域個体群の遺伝的多様性を正しく評価すること、および、細胞・遺伝子資源の保存体制を確立することである。 本年度は、これまでに開発した多型的DNAマーカーを用いて遺伝子型分析を行うとともに、ミトコンドリアDNAの集団遺伝学的解析および剥製標本等を用いたDNA分析を行い、シマフクロウ集団の時代的変遷の解明、および、地域個体群間の遺伝的交流の程度を解析した。その結果、ボトルネック以前の剥製標本等約50個体を含む各年代の約450個体についてDNA分析を行うことができた。北海道シマフクロウ集団において、ミトコンドリアDNAには少なくとも5つのタイプが見出された。過去のボトルネック以前には各タイプが北海道の広い地域に分布し、地域間の遺伝子流動があったことが示された。一方、ボトルネック後には少なくとも1つのタイプが喪失し、他の4タイプの分布範囲が縮小し、現在の各地域集団で見られるタイプは1つか2つになったことが明らかとなった。マイクロサテライト解析においても現在の地域集団間の遺伝的分化が示された。以上の結果は、ボトルネック後のシマフクロウ地域集団の分断とそれによる各集団内の遺伝的浮動と近親交配により、集団間の遺伝的構造が急速に変化したことを示唆している。これらの成果をまとめ、現在、学術雑誌へ投稿中である。さらに、追加の組織標本および剥製から得られたDNAの保存を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に基づいて成果が得られている。北海道シマフクロウの古い剥製等のボトルネック以前の標本も収集することができ、現在、国内で入手可能なシマフクロウ標本のほとんどを研究対象とすることができるようになった。当初計画していたマイクロサテライトDNA解析およびミトコンドリアDNA解析が急速に進展し、現生集団の遺伝的多様性の把握に加え、多様性の時代的変遷を解明することができた。この時代的変遷の研究成果については、学術雑誌に投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、北海道シマフクロウ集団の遺伝的多様性の状況をさらに詳細に理解するため、ミトコンドリアDNAおよびマイクロサテライトDNAの解析に加え、免疫系に関係する機能遺伝子の多様性とそのはたらきに着目し、シマフクロウ集団の環境適応(病原体への感受性)との関連性を解明して行く計画を進めている。予備的な研究データも得られつつあるので、今後、本格的に機能遺伝子研究に取り組む予定である。さらに、北海道集団とロシア・沿海州集団との系統進化学的・集団遺伝学的関係を解明する研究を継続する。
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