2012 Fiscal Year Annual Research Report
外来および野生動物感染症のリスクプロファイリングとその対策に関する研究
Project/Area Number |
23310169
|
Research Institution | Azabu University |
Principal Investigator |
宇根 ユミ 麻布大学, 獣医学部, 教授 (40160303)
|
Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 感染症 / リスクプロファイル / 野生動物 / 外来動物 / 対策 |
Research Abstract |
外来および野生動物の感染症のリスクプロファイリングとその対策法確立による、生態系および生物多様性の保全を目的として以下の研究を行った。 1)カエルツボカビ(Bd):国内での分布とその影響評価のためのモニター動物としてウシガエル幼生の有用性を検証した。併せて冬から春がモニター適期であること明らかにし、全国調査を開始した(24都府県、1,142匹)。オオサンショウウオなどの希少種を対象としたBd非侵襲的検査法と除菌法を確立した。国内飼育下外来および輸入両生類(21ヵ国、109種820匹)のBd保菌状況を調査した結果、輸入動物の保菌率は10.3%(58/561)で、うち89%から高病原性BdハプロタイプAを検出し、輸入動物の病原体キャリアーとしてのリスクを明らかにした。 2)ラナウイルス(RV):天然記念物のハクバサンショウウオおよび輸入動物(イボイモリ、ヤドクガエル)コロニーにおけるRV感染症流行を見出し、在来種への高病原性、易感染性と外来動物を介した国内侵入を公表した。ヌマガエル(8都府県13カ所1,120匹)を対象として、RVの国内分布と保有率を調査した結果、経時的な陽性地域の増加と保有率の上昇を確認した。 3)その他の両生類の感染症:ヒトの病原性黒色真菌Veronaea botryosaによる飼育下両生類6種19匹の流行を見出し、取り扱いに注意喚起をした。 4)エルシニア症:人獣共通病原体であるYersinia pseudotuberculosisによる国内初の飼育下小鳥の大量死を確認し、病原体解析を行った。また、対策として、遺伝子組換えエルシニアワクチン開発を進め、ワクチン原候補タンパクの作製に成功した。 5)破傷風:主としてバイオリソースとして有用なサル類の感染症に関して調査・研究を行い、飼育下ニホンザルにおける破傷風集団発生を見出し、その流行機序を明らかにして対策をとった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
その理由として、各種感染症に関する研究成果を学会、論文等で情報発信できていること。本研究開始2年目で、感染症対策に直結する研究にまで踏み込み、一定の成果を上げていることで、詳細は以下のとおりである。 1)両生類の感染症:野生動物の感染症対策には、自然界における保菌動物の特定(生活環)および国内分布の把握が重要である。申請者は研究開始当初に有用なモニター動物を選定し (第154回日本獣医学会)、継続して採取、解析を続け、それぞれの病原体の国内分布とその動態を明らかにしつつあり、その一部成果を2nd International Symposium on Ranaviruses(Knoxville, USA)において、招聘講演として発表する。さらに、Bdに関しては、オオサンショウウオを対象として除菌法と非侵襲的診断法を確立し、前者についてはDis.Aqua.Org(98:243-247,2012)に論文投稿し、希少動物保護に貢献する情報を発信した。 2)哺乳類および鳥類の細菌感染症:ニホンザル死亡事例を破傷風流行と特定し、さらに、サルおよびヒトを対象とした疾病コントロールに成功したことから、Emerg Infect Dis(18:1633~1635,2012)に論文投稿した。飼育下動物におけるエルシニア症対策のためワクチン開発に着手し、実験室内レベルで、その有効性を検証した。 3)その他の情報発信:新たに確認された各種動物の感染症(黒色真菌症、甚急性パスツレラ症、致死的食道虫症、トキソプラズマ症、Streptococcus gallinaceus 症など)を各種学術集会、内外の学術雑誌および商業雑誌を通じて情報発信した。また、両生類および哺乳類の注目すべき感染症に関する総説を地球環境、獣医疫学雑誌,エキゾチック診療などの読者層の異なる雑誌に投稿し、情報の普及に努めた。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究期間最終年に入ったことから、2年間に蓄積したデータ (カエルツボカビおよびラナウイルス)の解析、データ補充のための調査を行い、それぞれの病原体に関して、国内における実態とそのリスクを公表し、併せて対策を検討し、環境省および関係諸機関など各方面に提言する。研究期間内に見出された新規感染症に関しては、論文公表による情報発信を引き続き行うとともに、これらの感染症の病原体の特性、生活環を理解した上で、野生下および飼育下での、病原体の拡散・増幅、流行の阻止を目的とした感染症対策ガイドラインを考案する。エルシニア症ワクチンに関して、ワクチン原として有効な組換えタンパクの作製に成功したが、実験室内規模にとどまっていることから、量産に関して企業との連携を模索する。 世界的規模で流行し、両生類の減少に関与しているBdとRVについては、具体的には、Bdに関しては前年までに検体収集できなかった地域を主体に、本州ではウシガエルの、南西諸島では樹上性カエルの幼生を対象として、Bd国内分布を明らかにし、さらにハプロタイプを解析して、Bdの由来を特定する。また、各ハプロタイプの培養株樹立を試み、病原性を検証して、リスク評価とあわせて対策を検討する。RVに関しては国内移入種であるヌマガエルのRVを対象として、今までに確認された4種類のRV保有率とRV検出割合の経時的変化を把握することで、RVの自然界での維持機序を解明する。そして、RVを保有するヌマガエルがRV拡散および流行に関する役割を明らかにして、拡散・流行阻止の対策を検討する。その他、両生類の大量死事例の病性鑑定により新たに確認された黒色真菌症Veronaea botryose(ヒト真菌症の病原体)および、新たに確認したブルセラ感染症に関して、輸入外来両生類を対象として疫学調査を行い、侵入ルートや流行機序を解明し、併せてヒトへの影響を検討する。
|
Research Products
(57 results)