2012 Fiscal Year Annual Research Report
絶滅のおそれのあるツキノワグマ孤立個体群におけるMHC遺伝子の多様性評価
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23310170
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Research Institution | Forestry and Forest Products Research Institute |
Principal Investigator |
石橋 靖幸 独立行政法人森林総合研究所, 関西支所, チーム長 (80353580)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大井 徹 独立行政法人森林総合研究所, 野生動物研究領域, 室長 (10201964)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ツキノワグマ / 孤立個体群 / 遺伝的多様性 / 遺伝的交流 / MHC |
Research Abstract |
本研究は、絶滅のおそれのある西中国、および東中国山地のツキノワグマ個体群において、免疫機構の一部である主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の多様性を明らかにすることが目的である。西日本各地から集めた361個体分のサンプルについて、MHCクラスII遺伝子の中で多様性に富むことが重要な領域(ベータ遺伝子エクソン2およびその周辺領域)の塩基配列を解読することにより、以下のような結果を得た。 1.解読した376塩基対の29箇所に変異があり、合計9種類の塩基配列(アリル)が見られた。 2.東方の個体群ほど多くのアリルを保持していた。北近畿東部個体群(N=99)では9種類全てが見られたが、北近畿西部個体群(N=39)では5種類、東中国個体群(N=79)では4種類見られた。調べたサンプル数が最も多いにもかかわらず、西中国個体群(N=139)では最も少なく3種類だけだった。 3.西中国個体群では、アリルの9割以上(0.91)が他の地域でも高頻度で見られる特定のタイプで占められ、ヘテロ接合度は0.158と他の地域個体群(0.53ー0.795)と比べて著しく低かった。 4.北近畿東部個体群を福井県と他府県(京都、滋賀)に分けた場合、後者のサンプル中(N=44)に見られた5種類のアリルは全て北近畿西部個体群と共通していたが、福井のサンプル(N=55)には西方の地域には見られないアリルが3種類含まれていた。 以上の結果から、西中国個体群は、20世紀の末に個体数が著しく減少した際に多様性を失い、その後、東方の個体群との間に遺伝的交流がほとんど無いために、多様性が低い状態で維持されているものと考えられる。また、福井のサンプルが示した高い多様性は、本州中部以北に分布する個体群との間に遺伝的交流があることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本州西部の各地域から集めたサンプルについて予定通りMHC遺伝子の多様性分析を進めることができた。その結果、予想していたように中国地域の孤立個体群、特に西中国個体群において遺伝的多様性が低いことを明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
組織サンプルの収集を継続し、MHC遺伝子の塩基配列の解読を行う。また、開発済みのPCRプライマーを用いてMHCとは異なる遺伝子のイントロン領域の塩基配列を解読し、各地域個体群において多様性をMHCと比較する。さらに地域個体群間で多様性の違いや遺伝的分化の度合いを比較することにより、MHCの多様性に影響している要因を明らかにする。それらの結果を取りまとめて学会や論文等で発表する。
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