2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23320021
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Toyo Eiwa University |
Principal Investigator |
岩田 和子 (渡辺 和子) 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 教授 (00223397)
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Keywords | 古代西アジア / 契約 / 誓約 / 条約 / メソポタミア |
Research Abstract |
(1)アッシリア王かつバビロニア王であったエサルハドンが、アッシリア王位をアッシュルバニパルに、バビロニア王位をシャマシュ・シュム・ウキンに継がせることを決定し、紀元前672年にアッシリア内外の要人を召集して、その決定の遵守を誓わせた。誓いを立てた一人ひとりのために発行した粘土板文書『エサルハドン誓約文書』のうち、1955年にカルフ(ニムルド)発見された9部に関して、大英博物館蔵(ロンドン)所蔵の原粘土板文書と断片の手写及び校訂作業を行った。その際、博物館側から新たな未発表断片を研究のために提示された。 (2)『エサルハドン誓約文書』は神アッシュルの印章によって調印された法的文書としての誓約文書であるが、政治的プロパガンダとしても利用され、かつ宗教的な意味合いももたされた。このような、法的、政治的、宗教的要素の独特な混交のあり方について分析した。 (3)トルコ南東部のタイナト(Tayinat)の神殿で2009年に新たに発見された『エサルハドン誓約文書』の副本1部について情報を収集した。この発見により、研究代表者が想定したように、数百部が発行され、手渡された各人が自らの管轄領域に運んでいたことが傍証された。 (4)エサルハドンの父センナケリブは、アッシリアの国家神アッシュルを、バビロニアの最高神マルドゥクを凌駕する神とする、ある種の宗教改革を行った。研究代表者は、エサルハドンは父の改革を受け継ぎつつも、さらに進展させたとみる。エサルハドンはアッシリア(アッカド語でマート・アッシュル、「アッシュルの国」の意)の最大版図達成を機に、印影のなかにアッシュルの姿が見られる『エサルハドン誓約文書』の粘土板を、支配下におかれた外国人にも、自らの「神のように」敬うことを命じた。それは、元来、アッシュルと呼ばれた場所の神格化によって生じたローカルな神であったアッシュルのグローバル化であった。 (5)ハイデルベルク大学、ロンドン大学において研究者との討議を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
トルコのタイナトで『エサルハドン誓約文書』の副本1部が発見されたことにより、エサルハドンの実際の意図がより明らかになったため。
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Strategy for Future Research Activity |
古代オリエント全域において、神の印章の使用例をまとめ、法と宗教の関係について研究を進める。アッシリアの国家神アッシュルと外国人支配の関係について考察し、政治と宗教の関係について検討する。
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