2012 Fiscal Year Annual Research Report
ヴァールブルク美学・文化科学の可能性――批判的継承から新たな創造へ
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23320028
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
伊藤 博明 埼玉大学, 教養学部, 教授 (70184679)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 純 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10251331)
加藤 哲弘 関西学院大学, 文学部, 教授 (60152724)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ヴァールブルク / ムネモシュネ・アトラス / イコノロジー / パトスフォルメル / 占星術 / ニンフ / タピスリー / ペルセウス |
Research Abstract |
1.『ムネモシュネ・アトラス』の写真パネル再現展示に際し、パネル相互の空間的配置を通して、ヴァールブルクが構想した図像ネットワークの多次元的な構造を明らかにした。同展において『ムネモシュネ・アトラス』に準じた方法で新作パネルを作成する過程で、「ニンフ」の情念定型と対をなす「アトラス」の定型表現を「プルチネッラ」や「せむし」のイメージと関連づけ、神話的想像力のあらたな系譜を浮かび上がらせた。 2.『ムネモシュネ・アトラス』の全パネルとその成立過程を見直す作業のなかで、とくに、「動的生」を伝えるメディアとしてのタピスリーに対するヴァールブルクのとらえ方を解明するとともに、勝者と敗者の対比を強調する古代からの情念定型の残存を、現代における写真作品のなかに確認した。ロンドンのヴァールブルク研究所での調査では、講演等の未公刊テクストを調査し、彼独自の文化政治学的な発言の意義などを考察した。 3.『ムネモシュネ・アトラス』に含まれる多量の占星術関連のパネルの詳しい分析を行い、とりわけペルセウスのイメージの変遷に焦点を当てながら、ヴァールブルクにおける「アポロン的世界とディオニュシオス的世界」、「アテネとアレクサンドリア」という対立する概念の中での思考空間の意義について明らかにした。また、ヴァールブルク晩年の思索における、ジョルダーノ・ブルーノの哲学の影響について、日誌と書簡を手がかりに考究した。 4.補助事業者3名による研究成果『ムネモシュネ・アトラス』(ありな書房刊、2014年、ありな書房刊)を展開するために、二度にわたるシンポジウム「アビ・ヴァールブルクの宇宙――『ムネモシュネ・アトラス』をめぐって」「ヴァールブルク美学・文化科学の可能性」を、連携研究者とともに開催して大きな成果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『ムネモシュネ・アトラス』の全パネルの解説を含んだ邦語版を、当初の計画よりも早く、平成23年度中に刊行することができた。それによって、平成24年度には、アビ・ヴァールブルクの宇宙――『ムネモシュネ・アトラス』をめぐって」と「ヴァールブルク美学・文化科学の可能性」という2度のシンポジウムを開催することが可能となった。研究代表者・研究分担者はそれぞれの課題について着実に研究を進め、これらのシンポジウムや論文・著書において自らの成果を発表している。
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Strategy for Future Research Activity |
1.E.R.クルツィウスのトポス論、その弟子ホッケのマニエリスム論、ビンスヴァンガーの統合失調症論など、ヴァールブルクの情念定型論から直接間接に影響を受けている思想的系譜をたどり、それらをより広いマニエリスム論の枠組みと関連づけた考察を行なう。 2.ヴァールブルクによって『ムネモシュネ・アトラス』などで集中的に取り上げられる古代神話の主題を整理して、「古代の再生」の過程でとくに前景化した神話の構造を明確にし、バッハオーフェン、ウーゼナーなど、先行する古代神話論との関係のほか、デュメジルをはじめとする後の時代の比較神話学の知見からの解釈を試みる。 3.ヴァールブルクの総合的なイメージ研究が持つ「世俗世界のイコノロジー」としての側面に注目しながら、彼の方法論の特徴を19世紀から20世紀にかけての美術史学史の諸潮流のなかで明らかにする。古代から由来する情念定型の、とりわけ、近現代社会におけるその暴力的な作用について、映像や身体表現に焦点を合わせつつ、考察を進める。 4.晩年のヴァールブルクと美学との関係についても、折に触れて彼が書き残したエッセイなどにおける文化政治学的な発言に加えて、さらなる資料収集と、その分析作業を継続する。 5.ヴァールブルクの情念定型論を、異教的な古代古代とキリスト教文化との対立・交渉・融和という観点から再度見直す。また、その情念定型論をヨーロッパ的伝統の枠内だけではなく、日本における文化史・美術史においても展開する可能性を模索する。
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Research Products
(7 results)