2013 Fiscal Year Annual Research Report
ヴァールブルク美学・文化科学の可能性――批判的継承から新たな創造へ
Project/Area Number |
23320028
|
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
伊藤 博明 埼玉大学, 教養学部, 教授 (70184679)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 純 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10251331)
加藤 哲弘 関西学院大学, 文学部, 教授 (60152724)
|
Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | ヴァールブルク / ルモール / 情念定型 / ニンフ / ジルベール・クラヴェル / インプレーサ / エンブレム |
Research Abstract |
1 ヴァールブルクが折に触れて書き遺したエッセイや講演原稿などに見られる文化政治学的な発言の中から、イメージが視覚メディアとして果たす社会的機能をめぐるテクストに注目して、その一部の日本語化に着手すると同時に、ルーモール(ルーモア)を中心に、1世紀後のヴァールブルクと同様に18世紀末から19世紀初頭のイタリアで活動したドイツ人芸術家や美術史家たちの活動様態についての考察を試みた。 2「ムネモシュネ・アトラス」に準じた図版によるパネル構成を通じて発見された、「ニンフ」の情念定型と結びつく鳥=女(セイレーンなど)のイメージ系列と「アトラス」の情念定型と結びつく「せむし」(プルチネッラなど)のイメージ系列の関係性を、19世紀から20世紀初頭にかけてのドイツ語圏における「陶酔」という主題をめぐるさまざまな文化的動向を背景に、「アビ・ヴァールブルクにおける陶酔とメランコリーの認識法」と題する論文にまとめた。さらに、この「せむし」の系列と深く関わるジルベール・クラヴェルの建築作品や小説草稿に見出される神話的想像力について、国際美学会(クラクフ、2013年7月)や「ヨーロッパ・モダニズムおよびアヴァンギャルド(1900-1950)における時間と時間性」会議において口頭発表を行なった。 3 ヴァールブルクの学術的な関心のひとつであったイメージとテクスト(文学・思想)との連関を中心に考察した。「インプレーサからエンブレムへ――ベイコン『大革新』のフロンティスピースをめぐって」と題する発表を行い、その成果は松田美作子編『イメージの劇場』に収められた。またイエズス会初期のエンブレム・ブックに関する英語による発表 “Missionaries and Images: On an Evangelical Illustrated Book Published at Rome in 1573” を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における当初の目的の一つであった、『ムネモシュネ・アトラス』の全パネルの解説を含んだ邦語版は、計画よりも早く平成23年度中(24年3月)に刊行し、平成24年度には2回のシンポジウム――『アビ・ヴァールブルクの宇宙――『ムネモシュネ・アトラス』をめぐって」と「ヴァールブルク美学・文化科学の可能性」を開催してその成果を問うた。本年度は、これらの研究活動の中に浮かび上がってきた、ヴァールブルクが提起した問題群を、研究代表者および研究分担者が自らの関心に惹きつけて考究し、その成果は外国で開催された学会発表3件を含む研究発表、論文、翻訳において公表し、ヴァールブルクの美学・文化科学のもつ現在的な可能性の一端を示することができたと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
1 ルーモール、グリム、ブルクハルト、フィッシャー、シュマルゾウといった、ドイツ語圏における美学美術学研究の基礎を築いた研究者たちとヴァールブルクとの関係を再検討するとともに、ヴァールブルクが折に触れて書き遺した論文や講演、談話などに見られる文化政治学的な発言のなかから、イメージが視覚メディアとして果たす社会的機能をめぐる主張に注目して、その意義を明らかにする。 2 「ムネモシュネ・アトラス」の方法を拡張して実践したパネル制作のなかで見出された、「ニンフ」の情念定型と結びつく鳥=女(セイレーンなど)のイメージ系列と「アトラス」の情念定型と結びつく「せむし」(プルチネッラなど)のイメージ系列、およびその派生形態について、現代にいたる文学作品や美術作品にまで射程を拡げ、そこに作用している神話的想像力の系譜をいっそう幅広くたどることを試みる。これは、モダニズムやアヴァンギャルドの文学・芸術におけるアルカイックな「イメージの記憶」を、ヴァールブルク的な方法によって分析する作業となろう。 3 「ムネモシュネ」をはじめとするヴァールブルクによる歴史の探究方法が、おのずと彼自身に要求した(あるいは逆に、彼の思考方法がそこに由来していた)精神的・身体的経験──その極限が統合失調症発症である──の様態を、ヨハン・ホイジンガなど、他の歴史家たちの同種の経験と比較することにより、歴史家が過去の事象を探索し再構成するうえで遭遇する、情動をともなった「歴史経験」の特性を解明する。 4 情念定型と並んで、彼の最も重要な研究テーマであった占星術とその表象形態について、現在の研究成果を踏まえて、とくに中世後期からルネサンスまでの時期について再検討する。また、イメージとテクストの関連については、バロック期に最も流布し寓意的擬人像集成である、チェーザレ・リーパの『イコノロジーア』について考究する。
|
Research Products
(16 results)