2011 Fiscal Year Annual Research Report
「モノ」の世界から見た中世イスラームの女性~ガラス器と陶器を中心に~
Project/Area Number |
23320035
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | The Toyo Bunko |
Principal Investigator |
真道 洋子 財団法人 東洋文庫, 研究部, 研究員 (50260146)
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Keywords | イスラーム・ガラス / イスラーム陶器 / イスラーム建築 / フスタート / クフル(化粧顔料) / 料理書 |
Research Abstract |
研究の主な目的は、イスラーム時代の美術品、考古資料および文献史料を通じて、イスラームの女性が営んでいた生活文化を明らかにすることである。現代の社会的ジェンダー論ではなく、出土遺物の具体的使用法、絵画や陶器に描かれた図像、文献史料に描かれた記載などから中世の女性の生活や活動の実態について、食生活や化粧、医薬などをテーマとして実証していこうという試みを行っている。 研究実施の初年度にあたる2011年度は、考古学、美術史、文献史学、そして、建築学のそれぞれの専門家が問題提起を行い、基礎研究を行った。考古学の分野では、研究代表の真道と研究協力者の川床睦夫が中心となり、早稲田大学・出光美術館・中近東文化センターによって1978年~1985年にかけて実施されたエジプトのフスタート遺跡の発掘調査で出土した遺物の画像取り込みを行った。また、欧米を中心とした美術館のカタログや美術書から関連画像の取り込みとデータベース化も行った。そして、これらの資料に基づき、真道がフスタート郊外で発見された同時代資料の『ゲニザ文書』に見られる花嫁持参品リストとフスタート出の考古資料との対比から女性の装身具の特質についてまとめ、マムルーク朝期における多彩なガラス製装身具の展開について論じた。文献史料では、連携研究者の尾崎が料理関係のアラビア語文献を読み進め、料理器具、とくに、鍋について論考を進めた。 海外調査としては、7月にベルリンとパリに収蔵されているイスラーム時代のガラス製クフル(化粧顔料)用容器の調査と1月にイスラーム建築が専門の深見奈緒子早稲田大学准教授とともに、スペイン、アンダルシア地方の現地調査を実施した。これによって、スペインにおけるイスラーム建築、レリーフ・カットガラスに代表されるイスラーム・ガラスとラスター彩陶器に代表されるイスラーム陶器の実態究明に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究資料の基礎となる考古資料及び美術資料の数千点におよぶ画像のデジタル化およびデータベース化、ベルリンとパリで現物資料の調査、スペインにおけるイスラーム文化の現地調査を実施することができた。その成果に関して、装身具と料理について論文にまとめ、また研究会の開催及び各方面での研究発表も行った。研究代表者のほかにも核となる連携研究者および研究協力者間の研究体制も確立できた。
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Strategy for Future Research Activity |
基礎データとなる発掘品のデータベース化を継続し、本年度はシナイ半島のイスラーム時代の遺物に重点を置く。昨年度は政変などでアラブ諸国の現地調査実施が難しかった。とくに現地で出土品の調査を行う予定にしていたエジプトのシナイ半島では依然として治安状況が悪く、当面調査を見送る必要があるが、国内に所蔵されている出土遺物の画像取り込みを行うことができた。本年度は、政情や治安状況に注視しつつ、チュニジアおよびスペインなどで博物館や建築、民俗資料などの現地調査を実施する予定である。また、9月には予定通りスロベニアで開催される国際ガラス史学会で研究成果の一部を発表する予定である。
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