2013 Fiscal Year Annual Research Report
現代アイルランド演劇の総合的研究と国際的研究拠点の拡充
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23320063
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
岡室 美奈子 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (10221847)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三神 弘子 早稲田大学, 国際教養学術院, 教授 (20181860)
八木 斉子 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (10339666)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | アイルランド / 現代演劇 / ベケット、サミュエル / 共生 / 言語音 / 非言語音 / マーフィー、トム / サウンドスケープ |
Research Abstract |
本研究の目的は、アイルランド演劇の総合的研究を推進するとともに、研究拠点を拡充し国際的に活躍しうる若手の人材を育成することにある。2013年度の若手支援としては、ベケット研究者で研究協力者の菊池慶子の国際演劇学会における研究発表を経済的に支援した。 研究代表者の岡室は、ベケットの演劇が東日本大震災後の日本をはじめ世界中の危機的状況で上演されてきた事実に着目し、これまでのメディア論的観点からのベケット研究を発展させ、「ベケットと共生」というテーマに取り組んだ。その成果は、ローマ市立演劇記念館で開催されたベケット展での講演、および岩波書店『文学』2014年3月・4月号巻頭に掲載された論文に結実した。また、春期休暇中に集中的にベケット・ゼミを開催し、若手研究者とともに大量の関連資料を検討するとともに早稲田大学坪内博士記念演劇博物館と連携し、来年度のベケット展の開催を目指して、これまでの研究成果の社会還元の方法を模索した。 研究分担者の八木は、一昨年度と昨年度に引き続き、サミュエル・ベケット作品における言語音と非言語音をテーマにラジオ劇を主な対象として研究を進めた。音響、音声再生、音環境などに関する文献、ベケット関連文献、他の作家による演劇作品を論じた文献を読み込み、多方向からの視点を得た。出張先の大英図書館ではベケットによるラジオ劇『カスカンド』の録音を調査・分析した。これを基に執筆した論文は『英文学』第100号に掲載された。 研究分担者の三神は、昨年度の国際学会における口頭発表の内容をさらに発展させ、マーフィーの『ハウス』にみられる無音のグラモフォンが提示する心象風景について検討し、雑誌論文として発表した。<ハウス=家>の象徴性、グラモフォンに備わる過去を記録(記憶)し再生するという機能の意味を考察することによって、彼の歴史認識をあきらかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の両輪である(1)今日まで世界の現代演劇に影響を与え続けているサミュエル・ベケットのメディア論的研究、(2)常に新しい劇作家を生み出し世界的な注目を集めている現代アイルランド演劇におけるサウンドスケープの研究は、それぞれに着実な成果を挙げている。 研究代表者の岡室は、これまでのメディア論的観点からのベケット研究にとどまらず、そこから震災後の社会における演劇の意義という社会的テーマに発展させ、その成果はローマ市立演劇記念館における講演で発表されたほか、岩波書店『文学』の巻頭論文として掲載された。さらに、論文や学会発表のみならず、早稲田大学坪内博士記念演劇博物館と連携し、若手研究者とともに研究成果を視覚化する方法を模索し、社会への還元を目指している。 研究分担者の八木は、ベケットによるラジオ劇の分析を初年度から続けており、作品それぞれに適した分析方法をその都度開拓し、論文を英語で執筆し、学術誌に発表してきた。今年度の『英文学』に掲載された論文では、視覚としての文字・記号に対する音声としての言語・非言語を議論してり、これは昨年度までの方法に加わる新たな視点からの分析である。 研究分担者の三神は、主としてサウンドスケープをテーマに、トム・マーフィー、フランク・マクギネス、トマス・キルロイといったアイルランド演劇の主要劇作家について研究を進め、内外の国際学会での口頭発表、雑誌論文の発表と言った形で、着実に研究を進めている。 このように研究代表者、分担者ともに、当初の予定通り成果を挙げ発表しているのみならず、重要な柱として掲げた若手育成も予想以上の成果を挙げている。とりわけ、若手研究者とともに集中的にゼミを行ない、文献を検討しつつ研究成果の社会還元の新しい方法を考え、実践していくことには大きな意義があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度は最終年度のため、研究を進展させるとともに、これまでの研究成果を集約し、国内外での論文集の出版や論文投稿、展覧会といった多様な形態でそのアウトプットに努める。また、今年度はRAとして山崎健太を雇用し、研究のとりまとめに協力してもらうほか、引き続き若手研究者支援を行う予定である。 研究代表者の岡室は、引き続き久米宗隆、菊池慶子、山崎健太ら若手研究者とのベケット・ゼミにおいて「共生」という視点から震災後の社会におけるベケット演劇の意義について、文献を購読しつつ考察する。そして昨年度から準備を進めてきた早稲田大学坪内博士記念演劇博物館との連携により、外部の専門家を海外からも招聘して協力を仰ぎつつ、研究成果をベケット展という形で視覚化し、社会に還元する。そのカタログと併せた形で、ベケット・ゼミ参加者と外部の執筆者による論集を刊行する予定である。 研究分担者の八木は、初年度から続けていたサミュエル・ベケットのラジオ劇研究を本年度で集約させる。初年度から毎年おこなってきた大英図書館所蔵ベケット作品録音資料の分析を本年度もおこない、同時に、過年度よりも歴史的・ジャンル的に視野の広い文献を読み込む。また、ベケットの舞台作品、その他の劇作家によるラジオ劇作品との比較を本年度も続ける。これらを総合させた形で論文を執筆する。 研究分担者の三神は、最終年度は、研究対象をマーフィーに絞り、彼の作品全体に有機的に見られるナショナル・アイデンティティの問題、歴史認識などについて研究を進める。 三神と八木は、本課題により継続してきたアイルランド演劇研究会のメンバーと、 Contemporary Irish Theatre & Its Soundscapeというタイトルの英語論文集の編集を進める。2015年3月にアイルランドにて刊行予定。
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Research Products
(4 results)