2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23320066
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中地 義和 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (50188942)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
月村 辰雄 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (50143342)
塚本 昌則 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (90242081)
野崎 歓 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 准教授 (60218310)
SIMON-O Marianne 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 准教授 (70447457)
深沢 克己 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (60199156)
|
Keywords | 歴史意識 / モデルニテ / 海洋文学 / 写真と映画 / 散文詩 / 戦争と文学 / ポストコロニアル / オートフィクション |
Research Abstract |
本研究第1年目の平成23年度は、著しい変容を遂げる近代社会に生きながら、その歴史意誠をいかに作品化したかを、実施計画に従って、主として19世紀の重要作家を対象に探った。各メンバーはそれぞれの専門に応じて基礎作業を進めているが、とくに研究代表者中地は、『ボードレール年鑑』の編纂と執筆の作業、コレージュ・ド・フランスにおけるコンパニョン教授との共同研究を通じて、第二帝政期のパリを舞台に展開されたボードレールの詩と批評が、変容する首都、移ろいゆくモード、絵画のレアリスムといった、目まぐるしく移り変わる一過的なものという意味での「現代性」と、一過的なものから抽出される永遠なるものという意味での「現代性」との問で逡巡を重ねるなかから生み出される様態について、考察を深めた。それと並行して、従来海洋文学の特徴であった成長物語の側面が、近現代におけるテクノロジーの進歩を受けてどう変質したか、しつつあるかの考察を開始した。 研究分担者の塚本は、本研究の重要な対象のひとりである20世紀の小説家グラックの散文がはらむ歴史性の諸相についての考察を進め、一本の論考にまとめた。 他方、実施計画にはなく新たに盛り込まれた視点がある。19世紀後半に絵画に変わる視覚的表象形式として登場した写真、19世紀末から20世紀初頭にかけて登場した映画が、文学的感性に及ぼした影響、また写真や映画への文学の反響といった、ジャンル間の相互作用の諸相をめぐる、歴史意識の観点からの考察である。その成果は、研究分担者野崎の「文芸映画」をめぐる論考、中地による現代作家の映画論の翻訳と論考(『ル・クレジオ映画を語る』[近刊])に具体的な形をとっている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定であったロマン派における歴史意識の研究は、具体的成果の形をとるに至っていないが基礎作業は進行している。ボードレールに代表される第二帝政期のモデルニテの両義性について、韻文詩/散文詩の競合、モダン/反モダンの逆説的両立といった問題とからめて、多面的考察が進行し、その一端はすでに形になっている。また、写真や映画といった近代を特徴づける新たな表象形態を、歴史意識とからめて考察する発想が研究の途上で生まれ、新たな展開の可能性を開いた。以上より、総じて第一年目は順調に経過したといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
第二年目は、第一年目から行なわれている主要なロマン派作家の歴史意識に関する考察をまとめる。また世紀末のデカダン、象徴派における歴史意識、および20世紀の二度の世界大戦が影を落とす作品における「歴史の内面化」の諸相を探る予定である。また、当初の予定に即して、ポストコロニアル時代の引き揚げ者の子弟である文学者(デュラス、ル・クレジオら)の歴史意識を考える。 第三、四年目は、オートフィクションというジャンルをめぐる考察を進め、歴史意識の視点から文学とノンフィクション・フィルムとの関係、「写真小説」現象を考える。創作の動因としての歴史意識、実存を意味づける自伝的虚構の構築という二重の展望のもと、フランス語圏の研究者との知見の交換を含む研究のさらなる展開と総括を行なうつもりである。
|
Research Products
(31 results)