2011 Fiscal Year Annual Research Report
言語の普遍性と個別性を考慮した言語障害の症状の解明とそのセラピーの探求
Project/Area Number |
23320083
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
氏平 明 豊橋技術科学大学, 総合教育院, 教授 (10334012)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上田 功 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (50176583)
森 浩一 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), その他部局等, 部長 (60157857)
見上 昌睦 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (30279591)
川合 紀宗 広島大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (20467757)
坂田 善政 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 学院, 教官 (20616461)
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Keywords | 発話の非流暢性 / 吃音 / 構音障害 / アセスメントモデル / セラピーモデル / 日英母語の幼児吃音 / CALMSモデル / 3経路仮説 |
Research Abstract |
本年度はこれまでの研究と資料の整理、海外の協力者への言語資料提供をベースに吃音と構音障害のアセスメントモデル、セラピーモデル作成に結びつく研究に着手した。また海外からはネブラスカ大のヒーリー教授を招き、吃音の多側面からの最新のセラピーモデルであるCALMSモデルに関する講演会を広島、福岡、大阪で開催して、現役の言語聴覚士から好評を得た。UCLとの連携では坂田と氏平がマシュウ・スミス、ペーターハウエルと協力して、日英語母語の吃音幼児・吃音学童児の対照研究を行い、論文を完成させて、吃音児と非吃音児のアセスメントモデルのための一要件を確立した。この成果はUCLでは修士論文に発展し、本科研の2013年度の中間発表では音声学会誌に発表する。 上記に加えて、氏平は障害者と健常者の発話の非流暢性の対照研究に基づきそれらの判別を明らかにする内容の招待講演を第35回口蓋裂学会や福岡県士会秋の講演会等で5件行った。上田は発話の非流暢性に関する論文が海外の専門図書に掲載され、また日本語に関する論文も海外で発表した。見上は学童児の吃音指導に関する発表を日本コミュニケーション障害学会で、また吃音中学生の指導の事例を日本特殊教育学会49回大会で発表した。川合は構音検査の音韻プロセス分析ツール開発に関する論文を音声言語医学に、また障害児と健常児を対照した内容の研究論文も認めた。坂田は日本語母語幼児吃音セラピーの生資料を整理してUCLに送るとともに、データベースを作成した。森は単語音読に関する神経心理学的研究を参照し,脳機能を分析して,単語音読に関する脳内の3経路仮説を,さらに吃音者がそれらの経路の使い方が異なるのではないかという仮説を提案した。オランダの第6回発話運動制御国際会議に出席し,上述についての発表を行うとともに発話・構音の制御と吃音に関する多数の演題を聴講し,発表者と議論して理解を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、二つの大きな成果がある。一つは、UCLとの連携で幼児の英語母語吃音と日本語母語吃音の異同が明らかになり、健常児の発話の非流暢性と吃音に発展する発話の非流暢性の弁別指標が日英語で共通であることが示唆された。もう一つはCALMSモデルから得られた示唆である。前者はこの研究プロジェクトの後半のアセスメントモデル作成の吃音者と非吃音者の発話の非流暢性における弁別の指標の一つになる。それは語の繰り返しは吃音には発展しない発話の非流暢性であるという指標である。後者もプロジェクト後半のセラピーモデル構築において役立つことである。CALMSモデルの認知的側面からのアプローチは、音声的・言語学的側面重視のモデルにおいても、不可欠と考えられるからである。 その他に構音障害の研究では川合が構音検査と音韻プロセスの分析の具体的なツールの研究を発表した。また上田もカナディアンブリティシュ大学で進められている機能性構音障害の言語別国際評価基準作成のスタッフとして働いている。これらもプロジェクト後半での機能性構音障害のアセスメントモデル構築の礎となるものである。氏平はこれまでの吃音者と非吃音者の発話の非流暢性の対照研究成果をまとめて、発話の非流暢性から吃音者と非吃音者を弁別する簡潔なアセスメントと効率の良いセラピーモデル構築の指標を抽出整理した。見上は吃音学童児の臨床現場での対応や対処法をまとめた。坂田は日本語母語の幼児吃音のデータ収集とその分析から英語母語話者と同様な側面と異なる側面を把握した。森は海外における吃音研究の動向とその信頼度をまとめている。 以上から、この4年間のプロジェクトでちょうど1/4程度の達成度と評価できる。本研究の目標である吃音と機能性構音障害のアセスメントモデルとセラピーモデル構築への新た礎を得たこととこれまでの研究成果をまとめることができたからである。
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Strategy for Future Research Activity |
言語の普遍性と個別性を考慮して、個別言語に適切なアセスメントやセラピーのモデルを構築することが本研究の目的である。したがって先行研究が豊富な欧米語における吃音や機能性構音障害の研究成果を日本語の構造や特性で吟味していく。吃音に関しては、UCLのペーターハウエル教授のEXPLAN理論に基づく「機能語の繰り返しは吃音に発展しない非流暢性」という指標が日本語の発話の非流暢性にアセスメントとしては役にはたたない。吃音者も非吃音者も発話の非流暢性の大多数が発話の頭に位置するが、日本語の発話における統語構造では機能語が発話の頭にくることが稀だからである。英語では機能語が発話の頭に立つことが多い。 したがって本研究では吃音者と非吃音者のより普遍性のある弁別指標を三つ設定する。一つは「音声の移行」である。発話の頭で繰り返しが生じれば繰り返しの末の共鳴音から阻害音への音声の移行で非流暢性を多発するのが吃音者で、共鳴音同士の移行が吃音に発展しない非流暢性である。これは日本語、英語、朝鮮語で共通である。つぎの指標は母音発声時の「振幅の大きなゆらぎ」である。氏平の研究では幼児と成人の吃音者は母音発声に関して振幅のゆらぎが一定より大きくなる。英語の幼児吃音でも同様な報告がある。もう一つはピッチアクセントのアクセント核の先読みで非流暢性が多発することである。英語では吃音発生とストレスアクセントとの関連は古くから言われており、中国語の四声においてももっとも複雑な声の先読みで吃音者に非流暢性が多発する。したがって吃音に関して、日本語のアセスメントモデルの指標は「音声の移行」と「振幅のゆらぎ」、同セラピーモデルはこれら二つの指標に「アクセントの先読み」を取り入れて試作する。 機能性構音障害のアセスメントモデルでは音韻素性を駆使した素性階層理論や不完全指定理論に基づいて障害の難易を設定する。
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Research Products
(11 results)