2012 Fiscal Year Annual Research Report
プトレマイオス朝エジプトにおける文化変容の統合的研究
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23320127
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
周藤 芳幸 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (70252202)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内田 杉彦 明倫短期大学, 歯科衛生士学科, 准教授 (00211772)
中野 智章 中部大学, 国際関係学部, 准教授 (90469627)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 文化変容 / ヘレニズム / 東地中海 / エジプト / プトレマイオス朝 / 採石場 / グラフィティ |
Research Abstract |
本年度の研究の目的は、プトレマイオス2世時代から5世時代にかけてのエジプト在地社会における文化変容をエスニシティの視点から明らかにすることにあり、そのために中エジプトにおいて現地調査を行うと同時に、これまでの研究経過の報告を欧文により報告した。具体的には、8月から9月にかけて、これまで主として調査してきたニュー・メニア採石場からのデータを相対化するために、同時代の未知の採石場の発見を試みた。その結果、ナイル東岸に沿って、これまで十分に調査されていない複数の古代の採石場が存在することが明らかになったが、残念ながら明確にプトレマイオス朝期に位置づけることの可能な採石場の発見には至らなかった。しかし、同時並行して進めたアコリス遺跡出土遺物の調査からは、この地が第三中間期から外部世界と交流を持っていたことが明らかになりつつあり、プトレマイオス朝期のエスニシティの問題を考える上では、これに先行する末期王朝時代、ならびに第三中間期の状況を考慮しなくてはならないことが、ますます確かとなった。このような状況を受けて、年度末に開催した公開研究会「転換期としての前一千年紀:エジプト領域部の考古学」では、関連資料の総合的な分析と検討に加え、前一千年紀のエジプト、とりわけ第三中間期をエジプト史の上にどのように位置づけるのかという点をめぐって、意見を交換した。また、採石場から得られた文字データを景観的なコンテクストに据え直すためには、工学的なデータ収集を行う必要があるが、この研究会では、3次元計測の専門家も交えて、遺跡の3D計測の可能性を模索することにより、今後の研究の方向性を検討した。研究成果の途中経過については、アコリス遺跡の概報、及び国際パピルス学会のプロシーディングで活字化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の当初計画は、申請者がこれまで行ってきた東地中海文化交流史研究の一環としてエジプトで行ってきた研究の蓄積を踏まえ、エジプト学の専門家の協力を仰ぎながら、プトレマイオス朝エジプト史研究を国際的な視野から発展させることを目的としている。その成果は、第26回国際パピルス学会報告に掲載されるなど、国際的なアカデミアから認知されつつあり、その点では研究が順調に進展していると評価することができる。一方で、エジプトの現地情勢は依然として流動的であり、治安状況について細心の注意を払いながら調査を進める必要があるため、飛躍的な成果を生み出すための長期にわたる安定した調査への展望は必ずしも明るいものではない。しかし、この点に関しては、現地情勢に詳しい研究協力者との連携を通じて一定の解決が可能であり、その範囲内で研究を計画通りに進展させることは十分に可能であると考えられる。また、今年度に公刊したエーゲ海世界の物質文化や精神文化に関する研究成果も、間接的ながら、当初計画の遂行とそのスコープの拡大に貢献するものと判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、当初計画に沿って、プトレマイオス朝下におけるエジプト在地社会の文化変容について、物質文化の面から明らかにする作業に集中する。その方策としては、中エジプト・アコリス遺跡において1997年から2001年にかけて行われた発掘で出土したヘレニズム系の遺物を詳細に分析し、それらを地中海世界の文脈に位置づける。その際、出土遺物の中心をなす土器については、日本における土器研究(型式編年)の専門家にも知見を提供してもらうことにより、欧米の関連する研究に対して独自性を打ち出したい。また、採石場に関しては、3D計測を行う工学系の研究者との連携を、研究会の機会を通じて深めていく。
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