2013 Fiscal Year Annual Research Report
メロヴィング王朝期国家構造の総合的研究ー西洋古代から中世への移行新論ー
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23320158
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
佐藤 彰一 名古屋大学, 高等研究院, 名誉教授 (80131126)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | フランク国家 / メロヴィング王朝 / キルデリクス1世 / クローヴィス / トゥールネ / プリスコス / 『偽フレデガリウス年代記』 / テューリンゲン族 |
Research Abstract |
フランク国家の建国者とされるクローヴィスの父キルデリクス1世については史料証言の少なさと、断片性から、大幅に霧に包まれ、その事績は不明な部分が多い。だがその墓地は17世紀にベルギーのトゥールネで偶然発掘され、多くの興味深い副葬品が齎された。こうした研究状況のなかで、サリー・フランク人がライン川河口に近いトクサンドリア地方からあまり移動することなく、安定した纏まりをもったエトノス集団として一貫して存在していたとする考えを根底的に批判するドイツの中世史家ロルフ・シュプリンガーの一連の研究に触発され、「タブラ・ラサ」の状態から5世紀後半ガリアの支配関係を再構成しようと試みた。その成果は「キルデリクス1世とドナウ戦士文化」(『西洋中世研究』第5号2013年49-68頁)として2013年に公刊した。これは7世紀の歴史家『偽フレデガリウス年代記』の記述によりつつ、これまで重視されてこなかった東ローマ・ビザンティンの同時代の外交官プリスコスの記述に注目した結果の所産である。上記の論文の内実を、テューリンゲン問題を基軸に据えたフランス語論文「”Fugi in Toringia, latita aliquantulum ibi ”;. Pourquoi Chideric 1er s’exila-t-il en Thuringe ?」が近くフランスで公刊される予定である。 460年代に大きな政治的潮流になったと申請者が推測する、東西ローマの一体的掌握指向について、西ローマ皇帝ロムルス・アウグストルスを廃位したものの、自らが皇帝に登位することなく、イタリア王に留まった「傭兵隊長」オドアケルについて、最近のプロソポグラフィー研究の成果に助けられ、東皇帝による両帝国の単一支配構想の所産と思われる根拠を掘り起こしたが、これは近く開かれるだい66回日本西洋史学会のパネル発表で報告することになっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画を立てた段階では、主に既知の前提としてフランク・メロヴィング国家を構想し、これを構造的に解析することで、この政治的構成体の可能性と限界を明らかにすることを主眼としていた。しかしながら、上に述べたように、そもそも「フランク人、フランク部族とは何か」を曖昧にしたまま、構成体としての「フランク国家」の意義如何を問うことは、根底を欠いた脆弱なものになりかねない。「フランク国家」という歴史現象は、エトノスとしてのフランク人の存在と不即不離の関係にあり、エトノス集団としてのフランク人の存在は「フランク国家」の所与の前提ではなく、むしろ政治構成体としての「国家」が、フランク人というエトノスを事後的に生成する歴史的枠組として機能したと考えることもできよう。 このような理由から、フランク国家生成期以前の段階での王権をめぐる政治史的探究は、研究計画立案時には考慮の外にあった要素であるが、「古代から中世への移行新論」を目指す申請者にとって、従来の研究にはない新生面を開くものとなるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
西ローマ帝国の終焉期である450年代から、クローヴィスが覇権を掌握した480年代後半までの歴史を、ガリア、イタリアを基軸において、可能な限り精緻に再構成を試みる。その際、これまでともすれば西ローマ帝国史において疎かにされて来た同時代のギリシア語史料を「発掘」して活用するのが、新たな試みとなるであろう。 今後、西ローマ帝国終焉の年とされている476年前後の政治史を、可能な限り精緻に復元し、その後でメロヴィング国家の権力構造解析を、1)部分王国体制、2)王家の婚姻政策、3)分節的町税システム、4)教会組織と国家組織の共生構造、5)王権の性格の5点にわたって検討し、この王国を250年間にわたって支えた構造的布置を、立体的に浮かび上がらせるつもりである。
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Research Products
(9 results)