2012 Fiscal Year Annual Research Report
私法関係の形成における書面の機能と法律専門職の現代的役割
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23330026
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
横山 美夏 京都大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (80200921)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 克己 京都大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (20191398)
林 信夫 京都大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (40004171)
伊藤 孝夫 京都大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (50213046)
齊藤 真紀 京都大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (60324597)
佐久間 毅 京都大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (80215673)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 書面 / 法律専門職 / 証拠力 / 執行力 / 意思形成支援 |
Research Abstract |
平成24年度は、前年度に引き続き、まず、財産事務処理に用いられる書面を中心に、個別具体的な書面制度の機能分析を行った。その結果、以下のことが明らかになった。第1に、事務処理関係継続中に作成・保存が求められる種々の書面には、事務処理によって利益を受ける者の利益の確保および事務処理者による不正の防止という共通の機能がある。第2に、組織的活動において作成・保存される書面には、活動の合理化・効率化の契機としての機能が重大であると考えられる。第3に、非営利法人法の領域では、前記二つの機能の観点からやや重い書類作成義務を課すことは、法人格の付与に値しない活動体が法人となり、または存続することを防止する機能を果たしている。 つぎに、比較法的観点から、第1に、フランス法における書面の機能を取引関係について検討した。その結果、フランス法では、契約の成立に際し多くの書面が要求することが、書面の洪水ともいうべき現象を引き起こし、当事者意思形成の適切な支援に反する事態を生じさせる場合があることが明らかになった。第2に、ドイツ法における債務名義の成立の瑕疵の取り扱いとわが国のそれとの違いの由来についての検討を行った。それにより、両者の相違には公証人の関与のあり方が関係している可能性が明らかになった。 さらに、歴史的観点から、日本およびヨーロッパにおける書面制度の生成過程を検討した。まず、日本では、近世日本の民事紛争処理において行われていた「証文」=書証の価値を最重視する法運用が、明治に引き継がれたものの、その後、開港場における渉外取引の処理の蓄積およびフランス法の影響などにより、書証の重視の傾向が弱まったことが明らかになった。他方、ヨーロッパについては、イタリアに加えドイツについても、書面制度を支える公証人制度の歴史に関する研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、研究期間をおおまかに2つに分け、平成23年度および平成24年度は、書面制度の目的および機能を、①わが国における個別制度の分析、実務の実態調査、②書面制度の生成と発展過程、③ヨーロッパ諸国における書面制度との比較法研究を行うことが計画されていた。 これらのうち、①については、信認関係における書面制度の研究の領域で、予定より早く書面の機能につき一定の見通しができている。他方、組織関係における書面制度については、具体的な制度分析がまだ終わっていない。取引関係については、ほぼ予定通りの進捗状況にある。なお、研究の過程で、取引関係身分法関係についても個別制度を分析することが重要であるとの認識を得たため、研究領域を当初より拡大しており、その部分については、まだ分析は終了していない。 つぎに、②のうち、わが国における書面制度の発展については、研究課題の進捗が予定より著しく進んでおり、研究業績の一部はすでに公表されている。西洋法における書面の生成についても、ほぼ予定どおり課題が達成されている。 さらに、③については、大陸法のなかで、書面に対する専門家の関与のありかたが異なるイタリア法、ドイツ法およびフランス法の調査が完了している。これらのうち、フランス法については、予定より早く分析がすでに終了しているが、イタリア法およびドイツ法については、調査結果の分析を継続中である。他方、比較法的研究において、予定されていたイギリス法の調査がまだ実施されておらず、次年度に持ち越された。 以上を総合すると、部分的には予定より達成度の低いところもあるものの、予定を超えた達成度を得ている課題もあり、全体としては、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、まず、昨年度までに予定されていた研究のうち十分に消化されていない部分を急いで補完する。具体的には、ヨーロッパ諸国の書面制度のうち、アングロサクソン法の現地調査が予定通り完了していないので、速やかにこれを行う。その際、調査対象としては、ヨーロッパ諸国の法としてイギリス法が予定されていたが、昨年までの研究の過程で、ヨーロッパではないがアングロサクソン法としてアメリカ法も調査対象として重要であることが明らかになった。そこで、精査のうえ、より有益と思われる国を対象に現地調査を行い、実態を踏まえた研究を急ぐ。 つぎに、本年度は、これまでの研究結果をふまえて、とりまとめの作業を行う。主として行うのは、①あるべき書面制度の類型的内容の検討、②法律関係の内容の適正化を目的とする法律関係形成過程における専門家の関与の可能性とそのありかた、③その可能性に照らした法律専門職の職務の見直しである。 これらの点に関する考察に当たっては、まず、前年度までの比較法研究および歴史研究の成果を現代日本の状況と照らし合わせ、必要があれば比較法研究および歴史研究をさらに行いながら、そこからの示唆を反映させるとともに、現代日本に固有の状況を折出する。つぎに、これまで、個別制度の検討として、取引法関係、信認法関係、組織法関係のそれぞれにつき検討を行ってきたが、それぞれのなかで、本研究の目的に照らしてより詳細な分析を必要とする書面制度を中心に研究を進める。と同時に、身分法関係についても必要な範囲で検討を行う。そのうえで、わが国における最も適切な書面制度のあり方および法律専門職の関与について考察する。そして、最終的には、わが国における合理的な書面制度のモデルを提示し、書面の作成において法律専門職がになうべき役割に照らして、わが国における法律専門職の位置づけおよび職務の見直しを提言することを目指す。
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Research Products
(4 results)