2012 Fiscal Year Annual Research Report
輸出志向工業化とアジアの経済発展――空洞化の実証研究
Project/Area Number |
23330096
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
阿部 茂行 同志社大学, 政策学部, 教授 (60140076)
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Project Period (FY) |
2011-11-18 – 2016-03-31
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Keywords | 空洞化 / 地域統合 / サプライチェーン / 雁行形態 / 多国籍企業 / 部品貿易 |
Research Abstract |
TPPが動き出すことによりアジア大の経済統合が現実味を帯びてきた。もとより「世界の工場」アジアはデファクトに統合をすすめ、広範囲の生産ネットワークを築いてきた。2011年のタイ洪水はそうしたネットワークの中心にあったタイに甚大な被害を与え、世界の自動車・電機電子産業への影響は強いものがあった。現地調査を実施するとともに、回復過程、そして今後起こりうる変化をHS8桁分類の相手国別月次貿易データを用いて分析することにより、空洞化という観点から今後の経済統合の進展が及ぼす生産ネットワークへの影響を考察した。日系企業のネットワークの強さそして補完体制により回復は比較的早く3ヶ月程度で実現したが、産業によっては部品調達先が変更になり復旧しなかったところもあった(例えばベトナムのレンズ産業)。タイが今や世界一の輸出国となっているハードディスク産業への被害は甚大で、一昔前の最大の輸出国であったマレーシアのペナンが恩恵を受ける事態も起こった。こうした予備的考察でこれまでの研究と一線を画するのは台湾を明示的に導入した点である。 モントレー大学からマクリアリ教授を同志社大学に招き米国の空洞化問題について意見を交換、今後の研究協力の実施計画について話をつめた。また、シンガポール国立大学からタンガベル教授を招き、アジアの生産ネットワークの変遷がどのように空洞化を引き起こしているかに関して、現状の把握、今後の研究の課題について話し合い、2013年度より本格的にこの点の調査を開始することとした。 また、空洞化指標の作成に関しては、海外生産比率を業種別に時系列で整理し、空洞化の一つの指標として使えるように引き続き整理し、空洞化は国内における雇用機会の喪失、地域産業の崩壊、国際競争力の低下といったことを伴うと指摘されることからも、これらの統計も収集し、総合指標を作成する努力を続けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アジアの自動車産業ならびに電気・電子産業の生産ネットワークの中心となっているタイからの輸出入の動きを月次データで逐一フォローアップができたことによって、統計的に空洞化の雁行形態が浮き彫りになりつつあること。ことにハードディスクはマレーシアからタイ、中国に移転したこと、そしてデジカメの最大の生産基地もタイとなり、そのレンズ部品をタイに輸出しているベトナムの洪水後の回復が見えないことなども面白い調査結果で有り、今後、ベトナムの現地調査とともに明らかにしていきたい課題である。 マクリアリ教授は米国の産業空洞化に関する文献収集、統計収集、分析にいろいろな分析アイデアを出してくれ、日米の空洞化比較研究に関してより興味深い研究に着手できること。そしてタンガベル教授についても、シンガポールの工業団地産業の変遷について、文献、統計の収集について協力を約束してくれて、今後一緒に調査に当たれることは、全体の研究の進展にとって大きなプラス要因となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
タイの分析を敷衍し、ベトナムと台湾を研究対象に今後とりあげる予定であるが、ベトナムは衣料から電気・電子産業に軸足を移しつつあり、当然その過程で、台湾のように新規産業にそれまでの衣料産業労働者が十分吸収されるのかいなかを見極める必要がある。 台湾のアジアの生産ネットワークの中での役割はユニークで、台湾を含めた貿易データを駆使して、部品貿易の実態を捉え直す必要がある。米国オバマ政権が製造業国内回帰をめざし、アップル社がPCの生産を米国内で始めたが、それは台湾のホンハイの工場といったように世界中で台湾の多国籍企業が暗躍している。 こうした実態をできるだけ正確に貿易データで後追いし、新聞記事を含めた文献調査で肉付けをするそうした研究を地道に続行していきたい。 引き続き空洞化指標の作成、完成を目指す取り組みと、予備的計量分析のフレームワークを完成させることが今後の研究において重要な項目である。
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