2013 Fiscal Year Annual Research Report
輸出志向工業化とアジアの経済発展――空洞化の実証研究
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23330096
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
阿部 茂行 同志社大学, 政策学部, 教授 (60140076)
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Project Period (FY) |
2011-11-18 – 2016-03-31
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Keywords | 空洞化 / 地域統合 / 雁行形態 / サプライチェーン / 多国籍企業 |
Research Abstract |
日系企業は1980年代以降アジアに大挙進出し、アジアは輸出志向工業化のもとこれを歓迎し、アジアが「世界の工場」になる礎を築いた。サプライチェーンがアジア大に拡大した。この生産ネットワークは2011年の東日本大震災、そしてタイの大洪水で寸断された。生産ネットワークは比較優位を反映した形で国境を越えた広がりを見せている。安価な労働力が提供できる地域には労働集約的な生産モジュールが、中進国には資本集約度の高いモジュールが立地するようになった。タイを例にとると、日本企業の数は7千社を越え、日本企業による産業集積が進んだ。同時に自動車などの裾野産業については現地企業の進出も著しい。タイなどで見られる生産形態は、集積が発展してきている一方、モジュール化による部品生産という、世界の生産ネットワークに組み込まれた発展も見られる。 タイ大洪水により生産が寸断されたことからの復興過程を調べると、中間財の輸入に関して輸入先の変化も見られた。例えばデジタルカメラの部品、レンズをとってみるとベトナムからのものがなかなか回復しない。バングラデシュのアパレル工場崩壊事故のあと、繊維産業で比較優位にあるベトナムへの需要が高まると同時に、ミャンマーなどへの需要も増加した。こうした産業の盛衰が各国で鮮明になってきている。本年度はこうした事例を貿易データから丹念に取り出す作業を徹底した。それに加えアジアの空洞化の情報をさらに詳しく収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新たなサプライチェーンという観点から空洞化の議論を見直す作業をはじめ、産業の小分類での各国における変動が生産要素の賦存量に応じて、労働が豊富な国に労働集約的なプロセスが集中してきており、賃金が高くなれば、賃金の低い地域、国に産業が移転することが分かってきた。産業が移転すると、そこに空洞化が生じるわけで、こうした視点からの空洞化指標の作成が緒についた。 データ整理も予定通り進展し、それをつかった予備的計量分析も順調に進展してきている。 ただ当初予定していた台湾での実地調査についてアポがとれず、急遽インドネシアに実地調査地を変えたことは反省点としてあげるべきだが、インドネシア・ベトナムでの調査は予想以上に得ることが大きかった。両国ともインフレ率は毎年30%以上と高く、訪ねた工業団地でそこを退出する産業は概ね労働集約的な繊維・アパレル産業であることなどを突き止めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の海外調査では、インドネシアのあまりにも急速な賃金上昇、そして二輪車産業のローカルコンテントの高さ、労働需要の特殊性(技術は単純なので1年契約での雇用の方が得策)、またベトナムについては、賃金上昇とラオス・ミャンマーなどからの追い上げにゆれるアパレル業界の特殊事情も明らかにした。 本年度はこの調査をタイ・マレーシア等、対象国を拡大するとともに、産業の範囲を広げ、生産ネットワークの実態をさらに掘り下げる。具体的には、まず空洞化の文献整理を続けるとともに、データの整備に力を入れる。6月にヨルダンでのInternational Economic Associationの国際大会で研究成果を報告し、夏期休暇に台湾とNew Yorkに出張して、台湾の空洞化の実態を見聞、New Yorkでは大学、国連機関で資料を収集、専門家との意見交換を図る。10月以降、これらを文書に纏める。データを実証分析用に加工し、いくつかの仮説を検証する。その結果について、11月のバンコクで開催されるEast Asian Economic Associationの大会で報告もしくは専門家との意見交換を実施。受けたコメントを論文に反映させるようワーキングペーパー執筆を開始。春期休暇にはマレーシアに現地調査に赴き、識者との意見交換を行い、これをもとにワーキングペーパーを仕上げる。
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