2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23330120
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
渡辺 真一郎 筑波大学, システム情報系, 教授 (50282330)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金澤 雄一郎 筑波大学, システム情報系, 教授 (50233854)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 職務特性 / 職務特性認知 / 外向性 / 神経症的傾向 / 職務満足 / 協調性 / 治療的コミュニケーション / 患者満足 |
Research Abstract |
平成24年度は主として職務特性(状況要因)と性格特性(外交性、及び神経症的傾向)が職務満足に及ぼす効果に関する既存の因果モデルに認知的評価(やりがい、もしくは心理的脅威)という媒介変数を付加する理論上新規な職務満足研究を行った。調査対象はわが国の某大学病院に勤務する看護師である。その結果、以下の4点が明らかとなった:(1)職務充実度は仕事のやりがい認知と職務満足度を高める; (2)外交性と神経症的傾向は仕事のやりがい認知と職務満足度に対し、それぞれ正と負の効果を及ぼす; (3)職務充実度が仕事のやりがい認知に及ぼす正の効果は、外交的な看護師にとっては増幅されるが、神経症的傾向の強い看護師にとっては減衰される; (4) 職務充実度と性格特性は職務満足に対して直接効果を有するだけでなく、その効果は認知的評価によって部分媒介される間接的なものでもある。上記(1)及び(2)の調査結果は、既存研究と符合するものであり、本研究の外的妥当性を示すものである。一方、結果(2)及び(3)は、既存の職務満足研究に対して理論的な貢献を付加するものとして貴重と言える。本調査結果は、A stimulus/trait-organism-response (S/T-O-R) model of job satisfactionと題され、2013年度アメリカ心理学会23回大会の査読を通過した。 また、心理学的個人差変数(親和欲求、外向性、協調性)が看護師の治療的コミュニケーションと患者満足に及ぼす影響に関する研究を行った。その結果、共感性、寛容性、愛他性等によって特徴付けられる協調性が治療的コミュニケーション・スキルを高め、そしてこのスキルが患者満足に正の影響を与えることが明らかとなった。一方、外向性と親和欲求にはこのような効果が見られなかった。 今後は、看護師のチームワークと感情労働について研究していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は予定通り、Windsor大学のKwantes先生の協力を得て、カナダの病院からもデータを収集することが出来た。そして同一の質問内容に対する回答をカナダと日本の看護師から収集し、貴重な国際比較を行うことが出来た。その結果、両国の間には、「個人の特性と職務の特性が適合的であるほど職務満足が高い」といった共通点だけでなく、「カナダの看護師は勤続年数とともに職務満足が高くなる傾向があるが、日本の看護師にそのような傾向は見られない」、及び「カナダの看護師の職務満足は日本の看護師に比して有意に高い傾向がある」等の大変興味深い差異も見出された。共通点については既存の産業・組織心理学理論がわが国においても妥当であることを示唆している。また、看護師を対象とした心理学的研究が非常に少ない中、日加の間で上記のような相違点が明らかとなったことは文献上意義深い。なぜこのような差異が生じるかについての文化論的研究の端緒となり得る発見である。以上より、本研究は概ね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究内容を2つのテーマに大別する。1つは、リサーチ・サイトからの依頼を反映し、チームワークに関する研究を行う。常にチームで職務を遂行する看護師達のチーム・パフォーマンスを向上させるためにはどのようなチーム風土を醸成すべきであろうか、といった内容を主として扱うことになろう。第2は、サービス産業の拡大に伴って近年ホットな話題となりつつある感情労働に関するものである。産業・組織心理学や組織行動論分野では、セールス・パーソンやキャビン・アテンダントなどを対象とした研究が徐々に垣間見られるようになってきているが、人の生命を扱うという大変特殊なサービスを担う看護師を対象とした感情労働研究は私が知る限り皆無と言っても過言ではない。以上、2つのテーマは私にとっても大変興味深いものである。このようなテーマについて研究することにより、文献に対する貢献だけでなく、医療機関の人事労務管理の実践に貢献したい。 また、もし可能であれば「信頼」に関する研究をも行いたい。近年のグローバル化により労働人口の社会・文化的多様性が高まりつつある。まだ具体的に調べてはいないが、このような多様化がリサーチ・サイトである医療機関の看護チームにおいても高まりつつあると推察する。もしそうであれば、チーム凝集性の礎となる「信頼」に関する概念が構成員のそれぞれによって共通に解釈されていることが重要と思われる。しかし社会・文化的背景により「信頼」という概念が一義的に解釈されていない可能性が高い。時間的余裕とリサーチ・サイトの同意があれば、このような問題にも目を向けたい。
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