2012 Fiscal Year Annual Research Report
疫病蔓延・大事故発生などの危機事態における災害報道と人々のリスク認知
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23330195
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
釘原 直樹 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (60153269)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村上 幸史 神戸山手大学, 現代社会学部, 准教授 (00454778)
植村 善太郎 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (20340367)
吉川 肇子 慶應義塾大学, 商学部, 教授 (70214830)
岡本 真一郎 愛知学院大学, 心身科学部, 教授 (80191956)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 社会問題 / 災害報道 / リスク |
Research Abstract |
昨年度は第1に、写真や言葉といった刺激の連続提示が、その頻度判断に及ぼす影響について検討した。これまでの研究により、低頻度提示刺激の頻度判断は過大となり、頻度認知のピークは後方にズレることが明らかになっている。ただしこれまでの研究で用いられた刺激は同種の刺激(写真or 言葉)であった。そこで本年度は写真と言葉を混ぜ合わせた形(異種刺激混合)で実験を行った。その結果、同様に低頻度刺激の過大視と後方へのズレが見いだされた。第2に東日本大震災発生当時、新聞、テレビニュース、Twitterなどのネット上の情報にどの程度接触したか、そして、その程度と震災に何らかの形で関連する様々な対象に対する責任や非難の帰属の程度との関連を検討した。その結果、テレビニュースは高い頻度で多くの人が接触していたこと、新聞とネットとの接触については個人差が大きいことがわかった。第3に東日本大震災後のブログ記事を用いて、不謹慎な行為に対する非難というスケープゴーティング現象に着目して、手作業による分析結果と、テキストマイニングを用いた分析結果を比較して、その妥当性を検討した。第4にマスコミの緊急事態の報道について,言語的側面から検討を進めていくために,社会心理学や語用論の先行研究の中で扱われてきたアプローチの洗い直しを行った.第5にリスク・コミュニケーションの視点から、本年度は人々の事件・事故に関するリスク認知について、インターネット調査を行った対象者は、全国の20代~70代の男女を対象とし、最終的に1196名のデータを得た。非常に危険であると認知されているものは、大規模テロ、化学物質によるテロ、生物兵器によるテロ、サイバーテロ、地震、津波のように頻度は低いが、ひとたび起こると被害が大きいものであり、台風や竜巻、土砂崩れなどの自然災害がこれらに次いで危険であると認知されていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スケープゴートの変遷のイメージが生じる原因について検討するために刺激提示頻数の時系列変化が主観的判断に及ぼす影響について検討するために、様々な刺激を用いた複数の実験を行ってきた。実験の結果、全ての実験に共通して、高頻度刺激頻数は過小視され、低頻度刺激頻数は過大視されること、頻度判断数の最大値は高頻度提示刺激ほど早期に位置し、低頻度提示刺激は後方にずれることが明らかになった。 次にリスクに関わる様々な情報が、リスクへの認知に及ぼす影響を多角的に検討した。リスク発生時に、どのような報道が行われるかを最初に検討したので、これまでに情報の送り手側、そして情報の受け手の側について検討が進んだといえる。それから東日本大震災後のスケープゴーティング現象に関する記事分析に関しても、おおむね順調に進展していると考えられる。ただし、他の災害との関係性や、受け手の特性や感情状態が攻撃対象に対する原因帰属に与える影響については、まだ検討の余地がある。 事件・事故に関するリスク認知についてのインターネット調査については分析途上であり、今後、多変量解析の手法を用いて、リスク認知にかかわる要因について分析する必要がある。また、事件事故の際のリスク・コミュニケーションの具体的な事例については、調査の結果とあわせて分析を進める必要がある。この点で、達成度は、全体(3年度)の7-8割程度と考えている。 次に、マスコミの緊急事態の報道についての言語分析についてどのようなモデルを適用するべきかに関しては,先行研究での知見を整理してある程度の方針を得ることができたと考える.送り手の側の,マスコミ報道の表現の分析に関しては,今後さらに進捗させていく必要がある.一方,受け手の側の調査的な研究に関してはいくつかの言語表現を念頭に置いて進めることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は権威者の要請を人々がどの程度受け入れるかについて実験的に検討する。疫病が蔓延したり大事故が発生するような状況は緊急事態である。そのような時には権威者が人々に指示命令を与える事態になることもありうる。本年度はMilgramが行った服従行動実験の追試を行い、時代と文化の影響について吟味する。わが国は集団主義の文化だと言われている。すなわち世間や多数者に従う傾向が強いと考えられている。このような考え方に則ればわが国の場合には服従傾向が高いと考えられる。しかし一方昨年発生した原子力発電所の事故により人々の科学技術への信頼性が低下している可能性もある。そのようなこともあり、科学者が科学目的のために実験参加者に強制して服従させることが出来るのか否か疑わしい。本年度は現代のわが国の服従行動について明らかにすることを試みる。 さらに、波紋モデルを精緻化する作業を行う。そして事故や感染症に関するマスコミ報道のあり方や対処行動について提言を行う。そのために特にリスク・コミュニケーションの言語表現についても検討する。リスクのような不確実性を含む情報は、表現方法(例えば範囲表示とポイント表示)によりコミュニケーション効果に違いがあることが検証されている。この点に関してさらに吟味する。 次にリスク認知については、特に事故が起こった場合、変動する可能性があるので、同じ項目で次年度も小規模な調査を実施し、経時的変化をみていく。また、昨年度の調査については、多変量解析を用いて、リスク認知を決定する要因を明らかにする。そして情報の信頼性の分析から、より効果的なリスク・コミュニケーションのあり方が提案できるように進めて行く。これらの分析は、これまでの文献研究と、定性的な事例研究ともあわせて行って行く。
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Research Products
(19 results)