2012 Fiscal Year Annual Research Report
集団の心理的創発特性の可視化による的確なチーム・マネジメント方略に関する研究
Project/Area Number |
23330197
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山口 裕幸 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (50243449)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 知靖 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (30251614)
唐沢 穣 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (90261031)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | emergent property / visualization / shared cognition / team mental model |
Research Abstract |
本研究は、集団規範やチームワーク、チーム・メンタルモデルに代表される「集団の心理的創発特性」を可視化する測定技法を開発し、それを活かした的確なチーム・マネジメント方略を検討して、効率的なチーム育成プログラムを構築することを目的としている。 3年計画の2年目に当たる平成24年度は、まず、チーム・プロセスを測定して可視化するプロジェクトとして、企業における高業績チームのチーム・プロセスの特性解明を目指して、6つの企業の従業員を対象とする質問紙調査を実施した。大規模なチーム・レベルの特性の測定に加え、各チームの客観的なパフォーマンス指標として、販売業績や営業成績のデータを入手して、チーム・プロセスの特性との関連性を明らかにした。この研究成果は、論文にまとめ、投稿の準備を整えている。また国際学会での発表の申し込みも行う。 また、組織のメンバーが共有している記憶情報の構造を可視化する取り組みとして、放送番組制作組織を対象にした分有型記憶システム(Transactive Memory System)の構築プロセスを明らかにする参与観察と質問紙調査も実施した。さらに、組織レベルに備わる全体的心理学的特性の可視化の一環として、チーム・レジリエンスの測定プロジェクトも進めた。具体的には、大規模病院の看護師を対象にしたチーム・レジリエンスに関する観察と質問紙調査を実施して、そのデータをマルチレベル分析を用いて解析することに取り組んだ。併せて、集団規範の測定技法の実証的検討も進めた。これらの研究成果は25年度の学術会議、学会大会での発表に向けて、内容をとりまとめている。 上記に加えて、チームコミュニケーションの様子を撮影記録して分析する高性能測定機器を導入した集団特性の可視化プロジェクトも進めており、集団創発特性を可視化する効率的な方法の開発に向けて着実に歩を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実証研究の取り組みは、予定していたよりも順調に進んでいる。また、チームレベル、組織レベルの特性を明らかにするには大規模なデータ収集が必要になるが、その点でも企業を対象とする研究は従来の研究には見られない充実した心理学的データの測定に成功している。また、チーム・プロセス、組織の中の分有型記憶システム、チーム・レジリエンス、集団規範、チーム・コミュニケーション構造と、バラエティに富んだ集団の全体的心理学的特性をターゲットとした研究を進めることができている。 ただ、「可視化」の取り組みについては、複雑系計算の技法の取り入れの可能性を検討しているが、時系列的なデータを測定しない限り、その適用は困難であり、いっそうの測定の工夫を強いられている。また、測定対象の個人数は多くても、それをチーム単位で分析する場合、チーム数としては必ずしも大きなデータとならず、分析技法が限定されてしまうなどの問題にも直面している。 こうした問題を克服すべく、社会心理学者のみならず、科学哲学、複雑系計算学、観察工学、情報工学、医学等の多様な専門家と意見交換して、統合的な検討を進めている。3年計画の2年目を終えて、実証活動が生み出す成果は充実したものであり、研究は順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで進めてきた企業を対象とするチーム・プロセスの測定と可視化の取り組み、放送組織を対象にした分有型記憶システムの構築プロセスの測定と可視化、チーム・レジリエンスの測定と可視化、そして集団規範の測定と可視化の実証研究には、さらに、チーム・コミュニケーションの様子を撮影記録して分析する高性能測定機器を導入した集団特性の可視化のプロジェクトも加え、さらに充実を図る。高性能測定機器の導入に関しては、日立製作所が開発した「ビジネス顕微鏡」の活用を念頭に置いており、すでに関係者との打ち合わせに入っている。マサチューセッツ工科大学のPentland教授を中心とするグループがビジネス顕微鏡と基本性能が類似しているソシオメータという機器を活用して、活発に研究を進めているので、それらを参考にしつつ、彼らとの共同研究の可能性についても折衝しながら、プロジェクトの活性化を図る。 3年計画の最終年にあたる本年度は、これらの実証研究の成果を統合的に検討して、集団の創発性である全体的な心理学的特性の効果的な可視化技法の開発を目指すことも重要な柱となる。その際、効果的なチーム・マネジメントを検討するうえで有用性の高い可視化技法にしていくことを念頭に置いた検討を行う。そして、生産性や効率性の高いチームという側面だけなく、メンバーどうしの信頼関係や協調性の高いチームを育成するために、どのような介入をチームに行うことが効果的なのか検討して、優れたチームワークを発揮するチーム作りを可能にするマネジメント方略を科学的に、そして体系的に明らかにすることに取り組む予定である。
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