2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23340017
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉川 謙一 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20242810)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 解析的捩率 / モジュライ空間 / 保型形式 / 対合付きK3曲面 / ボルチャーズΦ-関数 / 国際研究者交流 |
Research Abstract |
(1)報告者は2004年に出版した論文において反シンプレックティック対合付きK3曲面の不変量τを同変解析的捩率を用いて構成し、2013年に出版した論文においてτのモジュライ空間(直交型モジュラー多様体)上の保型形式としての明示公式を多数の例に対して求めた。計算した全ての場合(約50個の族)に対して、この不変量はボルチャーズ積と井草保型形式の積として表される。2012年度の研究により、不変量τに対する同様の因数分解定理を少なくとも67個の格子に対して拡張するアイディアを得た。 (2)報告者による2010年度の研究で、代数多様体の一次元退化族とその上の中野の意味で半正な正則エルミートベクトル束に対して各ファイバーの解析的捩率を対応させる事により得られるパラメータ空間上の関数の漸近展開の存在が得られていた。漸近展開の主要項は対数的発散であるが、2012年度の研究により対数的発散の係数が特異ファイバーとその半安定還元から決定される具体的な特性類を用いて記述される事が判った。 (3)ボルチャーズΦ-関数はデデキントのエータ関数のエンリケス曲面版としてボルチャーズにより1996年に発見された10次元の保型形式である。この保型形式はエンリケス曲面との深い関連にも関わらず、その代数幾何的表示はこれまで得られていなかった。エンリケス曲面を被覆するK3曲面の(2,2,2)型表示を考える事により、ボルチャーズΦ-関数の値を定義方程式系の終結式とエンリケス曲面の周期積分の積として表す事ができたので論文に纏めている。その系として、ボルチャーズΦ-関数とテータ関数の新しい関係式が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題(B)として挙げた同変解析的捩率を用いて構成される対合付きK3曲面の不変量τの構造を決定する問題については、これまでの結果を拡張する形で新しく21個以上の場合に因数分解定理が得られた。そこに現れるボルチャーズ積を生成する楕円モジュラー形式の具体形はまだ不明であるが、とりあえず予想されていたτの構造を少し弱い形ではあるが大多数の格子に対して証明した事になるので、概ねこの課題は達成されたと考える。 課題(C)として挙げた楕円モジュラー関数jの差のCM点における具体的表示式(グロス・ザギエー公式)のアラケロフ幾何的証明は得られていないが、もう一つの問題として挙げたボルチャーズΦ-関数の値の明示公式については完全に解決できた。それにより、一般のボルチャーズ積のCMサイクルにおける値の明示公式(ショファーの公式)に現れる代数的部分の幾何学的意味が(ボルチャーズΦ-関数の場合に限定してではあるが)解明されるのではないかと期待される。 これまで課題(B)と(C)を中心に研究を行ってきたので、課題(A)のBCOV不変量の研究は大きな進展がない。関連する技術的問題として解析的捩率の退化族に対する漸近挙動の決定があるが、この技術的問題にはある程度満足できる結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で大きく進展した課題(B)、(C)を引き続き研究し、当初の目的を達成したい。 課題(B)では残された課題に加え、不変量の構成を対数的エンリケス曲面に対して拡張するためのアイディアが得られたので、対数的エンリケス曲面に対しても理論を展開する。 課題(C)ではエンリケス曲面の周期写像の逆写像の構成問題に向けた準備を始めたい。楕円曲線の周期写像の逆写像の構成は19世紀にヤコビやワイエルストラス等の大数学者により与えられたが、報告者の知見に基づけば高次元において同程度に精密な結果は皆無である。エンリケス曲面に対して周期写像の逆写像を構成するという問題は、曲面論において一つの究極の問題であろう。これまでの課題(C)に対する研究でその手がかりが得られたので、時間の許す限りこの問題にも取り組みたい。また、我々の結果とショファーの定理との関係を明らかにするために、両者に現れるCMサイクルの比較をぜひ行いたいと思う。 これまで推進する時間的余裕があまりなかった課題(A)にも積極的に取り組みたい。
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