2012 Fiscal Year Annual Research Report
宇宙の大規模構造形成を探る超高分解能X線分光センサと極低温動作環境の開発
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23340043
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
藤本 龍一 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (20280555)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | X線天文学 / 精密X線分光 / 断熱消磁冷凍機 / X線カロリメータ |
Research Abstract |
まず平成23年度の結果を踏まえて磁性体カプセルの設計を見直し,励磁時の排熱時間を改善するために結晶内に這わせる金線の本数を倍に増やし,結晶漏れを防ぐためにカプセルの継ぎ目を溶接にするといった改良を施して製作した。その結果,最低到達温度40 mK以下,保持時間20時間以上(100 mK以下)という冷却性能を実現すると同時に,結晶漏れを起こさず繰り返し使用できるようになった。センサ動作に十分な冷却性能を持つものを再現性よく製作する方法が確立できたと言える。一方,排熱時間に関しては予想に反して改善が見られなかった。結晶内の熱伝導度が原因ではないことが明確になったと言える。検討の結果,ケースに用いているステンレスの熱容量が大きいことが原因ではないかと考えている。 次に,センサの分光性能の改善に取り組んだ。平成23年度,TESの超伝導転移の際の転移温度幅が20 mK程度と本来の値よりも数倍広がっているという現象が見られており,磁場の影響が示唆されていた。さらに詳しく調べた結果,超伝導磁石で最大磁場をかけた際に漏れ磁場によってセンサの周りの超伝導シールドが磁場をトラップしてしまい,センサ動作時の性能に影響を与えていると結論するに至った。そこで超伝導磁石の周りの磁気シールドの設計を見直し,励磁した際にも一定の遮蔽効果が得られるようにした。これにより,転移温度幅は4 mKにまで改善し,希釈冷凍機での測定結果と同等の特性が得られるようになった。エネルギー分解能を評価したところ,5.9 keVのX線に対して約16 eV (半値全幅)という結果が得られた。これは平成23年度と比べて5倍程度改善しており,X線CCDと比べて1桁優れている。しかし,まだ本来の性能(~5 eV)を実現するには至っておらず,地磁場や超伝導磁石のわずかな漏れ磁場の影響を受けている可能性が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね研究実施計画に沿って進めることができている。断熱消磁冷凍機の磁性体カプセルについては,センサ動作に十分な冷却性能を持つものを再現性よく製作する方法が確立できた。センサの分光性能は,まだ必要な性能を実現するには至っていないものの,平成23年度と比べて大きく改善しており,さらなる対策方法についても検討を行なっている。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点でリサイクル時間を短くすることはできていないが,それを除くとセンサ動作には十分な冷却性能を持ち結晶漏れの起きない磁性体カプセルが実現でき,自作断熱消磁冷凍機は安定に動作している。そこで,今後はセンサの分光性能の改善を最優先課題として取り組む。センサの周りの磁気シールド,電気的ノイズ,センサの温度安定度等を中心に原因究明と対策をしっかりと進め,最終的に自作断熱消磁冷凍機で希釈冷凍機と同等のセンサ動作環境を実現することを目指す。引き続きASTRO-H衛星に搭載されるX線マイクロカロリメータ検出器の試験に参加して情報を収集し,ノイズ対策の参考にする。優先順位2番目として,リサイクル時間を短くするための改良案の検討と製作を試みる。
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