2012 Fiscal Year Annual Research Report
水素ライマンα線による太陽彩層磁場観測のための分光装置用回折格子の開発
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23340052
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
原 弘久 国立天文台, ひので科学プロジェクト, 准教授 (20270457)
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Project Period (FY) |
2011-11-18 – 2014-03-31
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Keywords | 太陽物理学 / 宇宙科学 |
Research Abstract |
本研究では、水素のライマンアルファ線の直線偏光を検出して太陽彩層・遷移層磁場を測定する計画に対して、観測装置に使用されるホログラフィック矩形溝の高効率凹面回折格子の国内開発を目指している。散乱の少ないホログラフィック溝形成方法での回折格子製作を選択したことから、溝形成とコーティングはS社に依頼し、この開発への協力を得るところからスタートしている。 平成23年度後半にその仕様が定まり、ロケット観測で想定する観測装置の収納性と波長分解能を両立させるために、開発する凹面回折格子は、溝本数3000本/mm、有効径φ100mmが必要となった。これだけの溝本数と有効径をもつものを製作するのは容易ではなく、凹面回折格子製作の前に、同じ溝本数と溝形状をもつ大面積平面回折格子を製作して、溝間隔の制御精度と良好な溝が形成される範囲について調査した。その結果、溝間隔の平均値として2999.8本/mmを達成し、溝形状は直径100mmの範囲にわたって十分形成されていることが確認された。 平面回折格子の開発と並行して、回折格子表面に塗布するAl+MgF2コーティングの反射率性能を向上させるための条件探索を行っている。このコーティングサンプル鏡をS社に多数製作してもらい、これを国立天文台で測定して、ライマンアルファ線の波長121.6nmで高反射率を示すコーティングの製作条件を見いだした。結果として、121.6nmでせいぜい50%程度であった反射率を、海外の専門メーカが供給する80%反射率をもつものの国内供給が可能となった。 年度後半から凹面回折格子の製作を開始し、平面回折格子で確認された刻線方法での溝の形成、その後の高反射コーティング塗布を経て、目的の凹面回折格子の製作を平成24年度末までに完了した。ここまでの内容については、平成25年3月の日本天文学会で報告している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究開始から1年半の間に、仕様の確定から始まり、予定通りに凹面回折格子製作を完了している点と、その報告が学会発表を通してなされていることからの自己評価である。実際には、これから始まる回折格子の実力評価と性能把握が重要である。遠紫外線領域で機能するホログラフィック刻線による凹面回折格子製作に必要なプロセスを理解し、従来のものに比べて刻線密度の高い3000本/mmの溝本数で有効径φ100mmの回折格子が国内の光学メーカで製作できている。これまでは、はじめから海外光学メーカでの製作が想定されていたものである。また、回折効率を高めるのに必要なAl+MgF2コーティングの製作条件を探索して、121.6nm波長においてこれまで国内では到達できなかった約80%の反射率をもつコーティング条件を見いだすことに成功している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度までに、最終製品としての凹面回折格子の製作まで終了している。平成25年度は、製作された回折格子の性能評価と装置レベルの偏光測定のための光源を製作し、光源から放射される偏光度評価を行うことを予定している。 まず、製作された凹面回折格子の回折効率評価を観測波長で行う。この評価測定については、国立天文台の紫外線モノクロメータを使用して行うことを考えているが、精度の高い測定を行うためにシンクロトロン光による測定が発生する可能性がある。評価面の範囲はφ100mmにおよび、その各部位での回折効率がどの程度一様に製作されているかが評価点となる。回折効率の一部を担うコーティング性能については、回折格子にコーティングを塗布する際に同時に製作した平面鏡の反射率を測定することで評価する。 また、本年度中に偏光較正測定用の光源システムを完成させる。この光源システムは、重水素ランプを光源とし、ロケット観測用の偏光分光装置のライマンアルファ線による機器アライメントと偏光較正測定の際に使用され、装置の入射スリット部にF9程度の収束光の直線偏光を照射するものである。ただし、斜入射反射により99.9%程度の偏光度を作り出すための高反射鏡については、別経費で開発されたものの使用を想定している。今回開発された凹面回折格子は、単体での性能評価の後にロケット観測用の偏光分光装置に取り付けられて、この光源システムの光で偏光信号の取得測定が予定されている。ロケット実験の採択が予定より遅れたため、本製作品で偏光分光装置に取り付けた測定を年度内に終了することはできない状況となっており、この点は次年度へ持ち越すこととなる。 平成25年度に実施する評価結果については、平成25年9月および平成26年3月の日本天文学会にて報告することを予定している。
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Research Products
(2 results)