2011 Fiscal Year Annual Research Report
クォーク・ハドロン物質の相転移における非平衡ダイナミクスの総合的研究
Project/Area Number |
23340067
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
國廣 悌二 京都大学, 理学研究科, 教授 (20153314)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大西 明 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (70250412)
日高 義将 京都大学, 理化学研究所・仁科加速器センター, 博士研究員 (00425604)
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Keywords | クォーク・グルーオンプラズマ / 古典ヤン・ミルズ場 / エントロピー生成 / リャプーノフ指数 / 超ソフトフェルミオン集団モード |
Research Abstract |
(i)重イオン衝突実験の要請する現実的な初期条件は「カラーグラス凝縮(CGC)状態」によってよく記述されることが分かっている。この初期条件の下で古典ヤン・ミルズ方程式を数値的に解き、リャプーノフ指数など系のエントロピー生成率に関係する物理量を求めた。その結果、CGCの状態に付加された揺らぎにより、系は不安定になり、正のリャプーノブ指数が生じ、エントロピー生成率であるコロモゴロフ・シナイエントロピーが得うれることが分かった。これにより、CGCにおける揺らぎの重要性はじめて明らかになった。今後、現実的な揺らぎの大きさを見積もり、実験の示唆する熱化時間が説明出来るかを解析する予定である。(ii)有限温度のゲージ理論において結合定数gが小さいとき、エネルギースケールの階層T,gT.g^2Tに応じて異なる励起モードが存在する。「ソフト」なgTのスケールではボソン的な励起プラズモンに対応してフェルミオン系でも「プラズミーノ」と呼ばれる集団的励起モードが存在することが1990年代にPisarskiとBraatenによって明らかにされている。gTよりさらに低いスケールでは、ボソン的な励起として流体モードが知られているが、それに対応するフェルミオン的な励起の有無自体これまでほとんど手つかずの課題であった。我々は、湯川模型と量子電磁力学の場合に超高温の相対論的媒質中において超ソフトなエネルギー領域にもフェルミオン的集団モードが存在することを摂動論の範囲で厳密に示すことに成功した。これは、Pisarski-Braaten以来の有限温度の場の理論における重要な成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
古典ヤン・ミルズ場の方程式を重イオン衝突の現実的な初期条件で解き、リャプーノフ指数を求めてエントロピー生成の特性を明らかにする課題は、雇用したボスドクの活躍もあり、予備的ながら興味深い結果が得られつつある。その内容は今春、関西学院大学で開かれた日本物理学会で報告した。その他の課題についても、研究の進展は順調であり、一部はすでに論文として掲載されている。
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Strategy for Future Research Activity |
古典ヤン・ミルズ場の解析によるエントロピー生成については、数値結果の解析、解釈を完成させ、数ヶ月のうちに論文としてまとめる予定である。また、二次の散逸を含む相対論的流体方程式の導出については、新しい方法の提起も含むことが判明したので、その方法の提示を含め、、いくつかの論文としてまとめる予定である。また、有限温度において超低エネルギー部分に現れうるフェルミオン的集団モードについては、その普遍性を確立するとともに、グラフェンなど物性系などへの展開を追求する予定である。これは、研究の進展により得られた新たな展望である。臨界点近傍の流体モードの臨界ダイナミクスの研究は次年度以降の展開となる予定である。
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Research Products
(3 results)