Research Abstract |
本研究では,LHC実験において,トップおよびボトムクォークの湯川結合定数測定を目指している。いずれの測定においても,ヒッグスがボトム反ボトムクォーク対に崩壊する事象を用いるので,ボトムクォーク起源のジェットを効率良く同定することが,ヒッグス発見能力,および崩壊比の測定精度の向上につながる。そこで,今年度は,LHC実験はデータ収集を始めて間もないことも考慮し以下の研究を行った。 1)ヒッグス探索において重要な背景事象であるトップクォーク対生成の断面積を測定した。0.7fb^<-1>のデータを用い,2つの孤立レプトンが存在する終状態を使い,さらにボトムクォークを同定することで,純度の高いサンプルを抽出,その生成断面積を 176±5(統計誤差)+14-11(系統誤差)±8(ルミノシティ不定性)pb と求めた。重心系7TeVという人類未踏のエネルギーにおいても,QCDの予言能力が失われていないことを確認した。また,ボトムクォーク同定をする場合と,しない場合で無矛盾な結果が得られたことから,ボトムクォーク同定がバイアスなく動作していることを確かめた。 2)ボトムクォーク同定に重要な役割を果たすシリコンストリップ検出器の運転および較正。 3)より精度の高い測定を目指して,LHCおよびATLAS実験は2022年をメドにアップグレードを計画している。その際に交換されるシリコンピクセルおよびストリップ型検出器の開発に参画,特に,SiTCPと呼ばれるネットワーク技術を使ったフロントエンドからの信号読み出しシステムめ開発に取り組んだ。すでに読み出しに成功していたスドリップ型の検出器ではより実機に近い読み出しに移行し,また新たに取り組んだピクセル型でもフロントエンドASCIからのデータ収集に成功した。 4)LHCで検証可能な標準模型を越える模型構築に取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
LHCは安定して高いルミノシティを供給している。ATLAS検出器の較正と調整も予想以上に早く進んでいるため,物理解析は当初の計画よりも早く進展している。理論的な取組も予想通りの速度で進展している。一方,シリコン検出器開発においては,我々の行っている信号読み出しは当初の計画通りだが,試験すべき対象である検出器そのものの製作が予定よりもわずかに遅れている。以上を鑑み,おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定に変更はない。解析においては,背景事象の精査から徐々にヒッグス探索に移行する。一方,シリコン検出器開発においては,開発した読み出しシステムの読み出し速度や信頼性をさらに高め,ビームテストで使用することを目指す。特に,試験すべきシリコンセンサーへのテストビームの入射位置を測定する参照用の検出器の開発に注力し,ビームテストを自前の検出器+読み出しシステムで行えるようにするのが最大の目標である。
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