2013 Fiscal Year Annual Research Report
高抵抗素材を用いた次世代高輝度ハドロン衝突実験用粒子線検出器の開発
Project/Area Number |
23340072
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
越智 敦彦 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40335419)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 粒子測定技術 / 素粒子実験 / ガス放射線検出器 / LHC実験 / ハドロン衝突実験 / マイクロメガス検出器 / MPGD / スパッタリング |
Research Abstract |
本年度は、次世代高輝度のハドロン衝突実験として現実に進行している HL-LHCに向けたATLAS実験アップグレードに関わる研究を中心として行った。この中で採用の決定しているMicroMEGAS は、陽極電極に高抵抗の細線を用いることが特徴とされているが、十分な精度を持った製造方法の確立と検出器性能を確認するための動作試験が必要である。 高抵抗細線の製法として昨年度はスクリーンプリントを用いていたが、この手法は安価ではあるが、十分な精度や抵抗値のコントロールが難しく、放電時などの絶縁破壊に対して弱点があることが判明してきた。そこで本年は新たに炭素スパッタリングとリフトオフ法(レジストによるマスクを用いたパターンニング)を提案し、この手法による検出器開発を行った。この結果、高精度のパターンと均一な抵抗値を持ち、基板に対する密着度が非常に高く、エッチングやメッキに用いる様々な化学薬品に耐性があり、かつ放電時の絶縁破壊にも耐性のある非常に理想的な高抵抗細線薄膜を開発することに成功した。 この技術を用いて実際にマイクロメガス検出器の試作を行い、高輝度中性子環境下の動作試験を行ったところ、従来のスクリーンプリントと同様の放電抑制効果が確認され、また抵抗ストリップが0.3μm程度の薄膜で形成されているにもかかわらず、放電等による電極損傷などは全く見られなかった。また、SPring-8 のLEPSビームラインを用いて、1.4GeVの電子線によるビームテストを行い、精密位置検出や検出効率に関しても十分な性能が得られることが確認できた。さらに、実際の ATLAS 検出器で用いる大型の検出器を製造するための基本的な研究も行い、約 45cm × 90cm のサイズの大型高抵抗細線薄膜の試作にも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
炭素スパッタリングによりMPGDの電極を形成するという新しい技術は、本課題開始時には存在しないものであったが、研究の過程で着想を得るに至り、本年度中に基礎開発から、動作試験、さらには大型検出器の量産への道筋をつけるところまで一気に進めることができた。このため、次世代ハドロン衝突実験である HL-LHC 実験のアップグレードプロジェクトである、ATLAS マイクロメガス検出器開発グループでは、製造コストを下げる条件付きではあるが、この新技術を第一の採用候補とするに至っている。 また、MPGD開発の分野では、検出器の心臓部となる電極を高抵抗物質で形成する研究が各所で行われているが、これまでの多くの手法では抵抗値や形状の安定性に問題があった。しかし新たに開発した炭素スパッタによる手法は、微細電極構造の形成や大型化、抵抗値制御が比較的容易であるため、ATLAS 実験だけでなく、国内外の多くの検出器開発グループからも注目を集めている。 これらのことから、今年度は本研究課題の中で大きなブレークスルーを得られ、当初の計画以上に研究の進展が見られたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、本課題研究の最終年度であり、開発の成果を実際の大型実験へ応用することを目指す。このため、ATLAS 実験の高輝度アップグレードに向けたマイクロメガス検出器の高抵抗電極として、本年度開発の大きく進んだ炭素スパッタリング技術を適用することを第一の目標とする。 これまでの研究で、この技術は他を圧倒する優れたものであることが ATLAS 実験グループの中でも認識されてはいるが、現段階ではスクリーンプリントなど他の技術よりは製造コストがかなり高いため、今のままでは ATLAS アップグレードに必要な大量生産を行うことができない。このコスト高の主な原因として、高抵抗ストリップに要求される抵抗値(約500kΩ/□)を実現するために、非常に長い(6時間程度)スパッタ時間が必要とされることが挙げられる。このため、スパッタ条件を調整することにより、短時間で目的の抵抗値を実現する手法の開発を行う。 また、小型のテスト検出器を用いて、ATLAS 実験で数年分以上に相当する粒子線を照射し、実際の実験で長期に耐えられることを確認することも行いたい。これらの開発・測定を通じて、高輝度のハドロン衝突実験に耐えうる実用的な検出器の開発を完成させる。 なお、本研究課題でこれまで扱ってきたμ-PIC型の検出器に関しては、次々世代のLHCアップグレードの検出器開発を目的とした別件の科学研究費(新学術領域(公募研究) 26104707)が平成26年度より採択されたため、そちらの課題の研究として引き継ぐこととする。その分、本研究課題では直近の LHC アップグレードへ向けた検出器開発の完成へ向け、資源を集中する。
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