2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23340097
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 卓 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (70354214)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
南部 雄亮 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (60579803)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 磁性 / 超伝導 / 中性子散乱 / 非弾性散乱 / 磁気散乱 / 鉄系超伝導体 / 軌道揺らぎ / スピン揺らぎ |
Research Abstract |
平成24年度は研究代表者および分担者の両者が東京大学物性研究所から東北大学多元物質科学研究所に異動となったため、年度の前半は装置の移動および再立ち上げを行った。それと同時に平成23年度に得られたデータの解析や、育成された単結晶/多結晶試料を用いた中性子弾性/非弾性散乱実験を行った。平成24年度の後半では東北大での装置が順調に稼働を始め、主にBa122系の単結晶育成と結晶評価を開始する事が出来た。また低温X線回折用クライオスタットの導入も行った。 平成24年度に得られた成果は具体的には以下の通りである。まず、Ba122系における Coドーピングと中性子非弾性散乱磁気励起スペクトルの関連に関して、これまで得られていた実験データの解析が最終的に終了した。その結果この系の磁気励起は(電子ネマティック等による対称性の低下を考慮する事無く)軌道のキャラクターを考慮に入れた乱雑位相近似で説明できる事が証明された。この事は電子ネマティック相を否定するものではない事に注意する必要は有るが、少なくとも磁気揺動の異方性に関してはフェルミ面のネスティングで説明できる事を示すものである。 他方、鉄系超伝導体関連物質である BaFe2Se3 やその混晶系に関する粉末中性子解説実験を精力的に行った。この系の母物質は絶縁体ではあるが、245系に見られるように、母物質が絶縁体でも金属化する事により超伝導の可能性が考えられる。そこで、本年度は Ba -> Cs 置換により磁気秩序を抑え、金属化、さらには超伝導の発現を目指した。粉末中性子解説実験を種々の置換濃度試料に対して行う事で、確かにこの系の磁気秩序は Cs置換により極めて強く抑制される事が判明した。残念ながら現在までに金属化には至らず、そのため超伝導も見られていないが、今後の研究に大きく期待される。その他、関連する種々の物質の物性研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記したように、平成24年度中の解析により、Ba122系の磁気揺動異方性のドーピング依存性がRPAの範囲で完全に説明できる事が示された。これにより、本研究の最大の目的である軌道揺らぎと磁気揺らぎの関連性の実験的検証に関して、磁気揺らぎ測定の方向からは、ほぼ答えが出たと考えられる。即ち、磁気揺動の対称性に軌道自由度の影響は見られない。一方で、最終年度は構造相転移近傍の構造の揺らぎをより精密に測定する事で軌道自由度等に関する情報を得たい。これに必要なクライオスタットは既に導入されており、平成25年度当初から実験が可能な状況になっている。さらに、この研究では新しい鉄系化合物の物性研究も目指しているが、この線の研究として123系の研究が予想外に良い成果を出しており、この方向の研究の発展も平成25年度は大きく期待される。このような理由から研究は順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、平成24年度に作成した単結晶試料を用いた中性子およびX線散乱実験を行う。中性子散乱に関しては、これまでとは異なり、動的帯磁率の非対角成分の測定を目指す事で軌道自由度を間接的に検出する事を目指したい。これには理論的な考察が必要になるため、来年度の前半はこれにあてる。実験は原子炉に設置された3軸分光器が必要になるであろうから、JRR-3の再稼働と同時に先ず最初にこの実験を行い科研費終了に間に合わせたい。一方、構造相転移は軌道秩序と強く結合している事が種々の実験により提案されているため、この系の相転移近傍での局所構造の揺らぎをX線回折法およびパルス中性子回折法により調べる。これらにより Ba122系での軌道自由度の振る舞いをなんとか直接的に観測したい。 一方で、123系に関しては、磁気秩序が抑制された組成を中心に、パルス中性子非弾性散乱やX線単結晶回折実験を組み合わせる事で磁気秩序抑制の起源を明らかにするとともに、この系の金属化、超伝導化への道筋を示したい。特に123系は結晶構造(梯子構造)から1次元性が想像されるが、もしそれが非弾性散乱手法により証明されれば、本系が銅酸化物高温超伝導体における梯子物質と同様の役割を果たす事が期待される。
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